葛西臨海水族園「東京の海」エリアの2階には、「アマモ場の小さな生き物」という小さな展示水槽があります。大きな水槽と比べると見過ごされそうな存在ですが、しかしこの時期、じっくり観察するとじつに面白い水槽なのです。
まずはタツノオトシゴ。現在オス2尾、メス1尾を展示していますが、ここ数日頻繁にオスがメスにまとわりつく、あるいはオス同士で押し合いへしあいの力比べをする姿が観察されています。これはまさしく繁殖行動。当の本人たちは「子孫を残す」という生物として最大の仕事をまっとうしようと真剣そのものなのでしょうが、観察する側からは、じゃれ合っているようにしか見えず、思わず顔がほころんでしまいます。
もう一つはコモンイトギンポ。けして派手ではない小型のギンポですが、こちらも非常に面白い行動を見せてくれています。オス3尾を展示していますが、このオス同士が顎が外れるかというほど大きく口を開けて威嚇しあう姿をしばしば見かけるようになったのです。大きく開けた口の中には赤い斑点が散在し、威嚇効果も十分。こちらもどうやらメス争奪戦の真っ最中のようです。とはいえ3尾のオスの中で飛びぬけて大きい個体がいつも勝って終わるこの闘争。最近はその大きなオスがメスのすぐ脇に陣取って、ほかのオスたちに睨みを効かせる毎日です。
魚たちもいろいろな思惑があって行動しているようです。次回水族園にお越しの際には、そんな魚たちの動きにも目を向けてじっくり水槽を観察してみてください。
写真上:メス(中央)を奪い合うオスのタツノオトシゴ
写真中:コモンイトギンポ
写真下:威嚇中のコモンイトギンポの口腔内
〔葛西臨海水族園調査係 増渕和彦〕
(2012年03月16日)
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