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ビミョーな関係をのぞいてみよう
 ダテハゼとテッポウエビとハナハゼ

 「東京の海」のコーナー、「伊豆七島の海」水槽をのぞいてみましょう。砂底に直径3センチほどの穴があります。その近くには、白地に赤い縞のあるダテハゼが、たいてい穴の入口に尾をさしこむように陣取っています。この巣穴は彼が掘ったのでしょうか? もうしばらく観察してみましょう。

 穴の中から、ガガガーっと、砂を持ち上げてくる生き物がいますよ。小さなエビがブルドーザーのように、二つの大きなハサミの背に砂をたっぷり乗せて運び出しているのです。穴にもどったかと思うと、またガガガーッ。ときには穴の壁に小さな石を積み上げて補強するような行動も見られます。どうやらこのエビがせっせと掘った穴のようです。

 では、ダテハゼはいったい何をしているのでしょう? 穴堀りを手伝うわけでもありません。じつはダテハゼにも大事な任務があるのです。小さなエビ、「ニシキテッポウエビ」が穴から出てきたとき、その赤くて長い触角に注目してみてください。つねに、ダテハゼの体に触れるようにしているのがわかります(写真上)。砂を運び出してきても、ダテハゼが穴の入口から離れて不在なのがわかると、穴の中に引き返してしまいます。また、ダテハゼが巣穴にひっこんでいるときは、エビもけっして外に出てくることはありません。

 じつは、ダテハゼは見張り役。危険がせまると体やひれを小きざみにふるわせます。すると、触角によって警報を受けたエビは穴に逃げこみます。逆に、安全なときは尾びれをゆっくりとふって、「出てきていいよ」と信号を送ります。

(東京ズーネットBBの動画でダテハゼとニシキテッポウエビの行動を観察してみよう。こちらをクリック

 ダテハゼは、視力の弱いエビが安心して穴を掘ったりエサを食べたりできるように見張りをし、かわりに巣穴に同居させてもらいます。なにも隠れるところのない砂地にくらす両者のあいだには、いっしょにくらす協力関係が成り立っているのです。

 ところで、同じ水槽に展示されている「ハナハゼ」というハゼのなかまも、やはりこの巣穴を利用しています(写真下)。たとえば掃除の時間になると、ダテハゼやテッポウエビよりもいち早く気配を察知して、5尾いるハナハゼのすべてが穴に逃げ込みます。

 エビの巣穴にそれほど収容能力があることもおどろきですが、ハナハゼとダテハゼとテッポウエビの関係も不思議でなりません。ハナハゼは見張りもせず、穴を掘っているようすもありません。ふだんは水槽の中層をフワフワと泳いでいて、危険がせまっているようすがなくても巣穴に入ることがよくあります。そんなとき、ダテハゼやテッポウエビはハナハゼを追い払うこともなく無関心です。どうも、ちゃっかり巣穴を利用しているだけに見えます。

 この三者の不思議な関係は自然の海でも観察されます。ハナハゼがただの居候なのか、いや、じつはなにかの役立っているのかどうか、よくわかってはいません。ハナハゼのようにテッポウエビの穴にただ居候していたハゼのなかまが、長い年月の間にダテハゼとテッポウエビのような共生関係に進化したとも考えられています。

 水槽内の三者をめぐる損得を考えながら観察していると、表情まで人間くさく見えてくるのが不思議です。ぜひ、皆さんも三者の関係をのぞいてみてください。
〔東京動物園協会調査係 天野未知〕

(2004年12月9日)



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