葛西臨海水族園で最近イソギンチャクの興味深い行動をいくつか目にしました。3回に分けてお伝えするシリーズの今回は最終回です。
「それ」に気付いたのは2010年9月末のことでした。 世界の海エリア「モーリシャス」水槽で展示しているイボハタゴイソギンチャクの体の横から、何かがとび出していたのです。よく見てみれば「それ」は小さなイソギンチャクでした。(右の写真をごらんください)。
すぐに、これはイソギンチャクのさまざまな繁殖方法のひとつ「出芽」だなと思い当たりました。出芽とはイソギンチャクの体の一部から、もう一つの個体が、まさに芽が出てくるように生えてくる繁殖方法です。受精を伴わないので無性生殖と呼ばれ、生えてきた個体は元の個体と同じ遺伝子を持っているクローンになります。
いくつかあるイソギンチャクの無性生殖方法の中で、体の縦方向に裂け目ができて2つに分かれる「縦分裂」は、このシリーズの1回目にお伝えした「南アフリカ沿岸」水槽で展示していたイソギンチャクで観察したことがあるのですが、出芽は見たことがなかったので、写真を撮って経過を見守ることにしました。
しかし、いつまでたってもこの小さなハタゴイソギンチャクは、生えてきた場所にくっついたままです。7か月後に撮影した写真を見比べてみると、たしかに少し大きくはなっていますが、2つの個体に分かれる気配はありません。
そこで専門家に聞いてみたところ、これは「出芽」ではないかもしれないということでした。イボハタゴイソギンチャクの出芽は、今まで報告されたことがないそうです。また、イソギンチャクは体に傷がついたりすると、そこに触手の輪ができて、小さな個体が生えてきたように見えることがあるそうです。
水族園のイボハタゴイソギンチャクも繁殖方法としての「出芽」ではなく、傷か何かの原因で出てきたものなのかもしれません。これからも経過を観察していこうと思います。
・
ある日、イソギンチャクが──1「フォールスプラムアネモネのケンカ」
・
ある日、イソギンチャクが──2「コイボイソギンチャクの産卵」
写真上:「モーリシャス」水槽のイボハタゴイソギンチャク
写真中:2010年10月のようす
写真下:約7か月後
〔葛西臨海水族園飼育展示係 三森亮介〕
(2011年06月10日)