葛西臨海水族園の世界の海エリア「モーリシャス」水槽では、みごとに岩に擬態したオニダルマオコゼを展示しています。背びれなどには猛毒の棘があり、刺されると人が死んでしまうことのある危険な魚として知られています。水槽の中では砂に潜りこみ、じっと動かずにいて近づいた魚などを電光石火のはやわざで捕まえて食べます。
オニダルマオコゼがひそむ砂の上には、大きな花のように見えるイソギンチャクがいます。そのイソギンチャクの上に何やら透き通った生き物がいることに気がつかれるでしょう。これはイソギンチャクカクレエビというテナガエビ科のエビで、インド洋から西部太平洋やオーストラリアのサンゴ礁がある暖かい海に分布しています。英名でこのエビのなかまは、アネモネ(イソギンチャク)シュリンプ(エビ)と呼ばれ、その名の通り、いくつかの種類のイソギンチャクやナマコと一緒に見られ、単独またはペアでくらしています。
イソギンチャクにはクラゲと同じように、餌や敵に毒針を発射する「刺胞」とよばれる細胞があります。多くの生物は近づかないよう避けていますが、イソギンチャクカクレエビは、イソギンチャクの近くでのびのびとくらしているように見えます。
このエビは、水槽にいるオニダルマオコゼやイトヒキテンジクダイから、餌としては見られていないようです。白い斑紋のある透明な体は、イソギンチャクにくっついた何かのゴミくらいにしか見られていないのかもしれません。
イソギンチャクに寄り添い、透明人間のように目立たずくらすこのエビは、水槽の中からあなたを隠れながら見ているのかもしれません。
〔葛西臨海水族園飼育展示係 笹沼伸一〕
(2010年12月03日)
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