ちょっと前の話になりますが、今年(2010年)2月、葛西臨海水族園そばの西なぎさでアユの子どもが20尾ほど採集されました。この時期アユの体型は細長く、大きさは3~8センチメートルほどです。
水族園に持ち帰り数日後、アユを入れている水槽でちょっと気になることがありました。ひらひらと比較的ゆっくり泳ぐアユの群れのなかに、ときどき、光や物の影に敏感に反応し、ピッピッと切れのある速い泳ぎをする魚が2尾いるのです。じっくりと観察したところ、一見、体型や大きさなどはアユに似ていますが、アユに比べてやや頭が大きく、口もとに丸みを帯びていることなどの違いが見られました。
いろいろ調べた結果、じつは、この魚は「サケ(シロザケ)」の子どもだったのです。水族園の西なぎさ調査では初めての採集記録となります。
本来、サケは太平洋側では利根川以北の河川に産卵のため遡上するとされています。東京湾に注ぐ江戸川は利根川水系の一つにあたるので、ここから来たと考えれば自然です。
ところが、近年、サケの自然分布ではない河川にサケの子どもを放流するケースがいくつもあり、東京湾に流入する河川でも、今年の冬にサケの放流があったようです。
この2尾のサケがどこから来たのかは定かではありませんが、本来の自然の分布域で産卵・孵化したものが、たまたま西なぎさに迷い込んだのであることを願いたいところです。
現在、このサケは東京の海エリアの「葛西の海」水槽で展示しています。2尾のサケが生まれた(放流された)場所、さらには東京湾に同様にいるであろうそのほかのサケの行く末などについて想像してみてください。
〔葛西臨海水族園飼育展示係 田辺信吾〕
(2010年05月14日)
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