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かわいい子には流れを当てよ? アークティックアイソポッドの子育て
 └─2009/11/20

 葛西臨海水水族園ガラスドーム内のエスカレーターを降り、トンカチ頭のアカシュモクザメに出会ってから、大水槽を回遊するマグロを見て、次の「世界の海」の展示を進んで行くと、水槽内が薄暗く感じられるコーナーがあります。

 ここは深海や極地の展示水槽で、ダイナミックな遊泳をするマグロやシュモクザメや暖かい海にくらす色鮮やかなサンゴ礁の魚たちに比べると、動き回る生き物が少なく、地味な印象を受ける水槽です。この中の「北極海」の水槽で最近、数年ぶりとなるできごとがありました。

 水槽の中をのぞいてみると、海藻や岩の上に昆虫の「ナナフシ」に似た茶色の細長い生き物がジッとしています。2本の大きなツノのようなものを頭の先から突き出した、この見なれない生き物は、アークティックアイソポッド(以下アイソポッド)といいます。陸上にいるダンゴムシと同じなかまで、北極海周辺のとても冷たい海にくらしています。

 先日、1匹のアイソポッドのツノのような触角の上に、白い綿ボコリのようなものがついていました。よく見ると、小さいながらもアイソポッドと同じ姿をしています。子どもが出始めたのです。

 アイソポッドのメスは、袋状の膜でできた「育房」と呼ばれる保育嚢を胸の部分にもっています。この育房で卵を抱きかかえて守り、子どもが孵化して親と同じ姿になるまで保護します。子どもは自分で歩けるようになると、袋から外の世界へと冒険を始め、まず、お母さんの触角によじ登っていきます。現在、数匹の子どもがまばらに見えますが、触角の形が見えにくくなるほどたくさんの子どもがつくこともあります。

 アイソポッドは水中に漂うプランクトンなどを食べています。アイソポッドの胸に生えた脚には、プランクトンをこしとるための細かい毛がたくさん生えています。餌が流れてくると、このクシのような脚を左右に広げ、餌をとらえて食べる行動が見られます。しかし、触角に子どもをつけているメスは脚を閉じたままでいることが多く、これは、育房から出て来る子どもたちが触角にのぼりやすいよう、通り道を作っているのかもしれません。

 子どもたちを触角に乗せたメスは、水の流れがよく当たる場所にいることがあり、ときには子どもたちを持ち上げるように体をそらしたりもします。子どもたちに餌を効率よく食べさせるためかもしれません。どの生き物でも子育ては大変な作業のようですね。

 以前、子どもが1年以上もお母さんの触角の上でくらし、親の3分の1くらいの大きさまで成長したことがありました。人間なら頭が重たくてしょうがないのでは?とさえ思えます。「母は強し」といったところでしょうか。一見、地味に見える水槽で、静かに子育てをしているアイソポッドをごらんください。

・東京ズーネットBBの動画
 「アークティックアイソポッド」(2003年9月撮影)

〔葛西臨海水族園飼育展示係 笹沼伸一〕

(2009年11月20日)



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