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フンボルトペンギンのひなの「卵歯」
 └─2009/01/09

 葛西臨海水族園では今、フンボルトペンギンのひながつぎつぎに孵化しています。そこで今回は、孵化にまつわる話をしましょう。

 みなさんは「卵歯」(らんし)とは何だかわかりますか? 卵に生えている歯ではありません。鳥類のひなが孵化するとき、中から自分で殻を割るときに使う硬い組織です。

 鳥類は空を飛ぶために体を軽くするよう進化しました。軽量化のために歯もありません。もともと飛ぶ鳥だったペンギンたちにも歯はありませんが、卵歯という「歯」が(一時的に)あるのです。

 発生学上、本来の歯の起源は体表の甲皮とされていますが、卵歯は上嘴(じょうし:上側のくちばし)の表皮の角質層からできていて、起源が異なります。しかし、本来の歯のように白色をしているので、卵歯と呼ばれるようになったのかもしれません(英語でも egg tooth「卵歯」です)。

 鳥類辞典などを見ると、卵歯は一般に孵化後数日以内に消失する、と書かれています。たしかに、コンペイトウのかけらを貼りつけたような突起状の卵歯をもつ鳥もいて、必要がなくなれば、いかにも脱落しそうです。

 しかし実際は、鳥の種類によって異なります。フンボルトペンギンのひなの卵歯は、上嘴先端の少し湾曲した角についた白斑のようなもので、わずかに突き出ているだけです(写真)。そして、なかなかなくなりません。

 親鳥から餌をもらうとひなのくちばしは汚れるので、くわしい観察はできませんが、フンボルトペンギンのひなの卵歯は、しだいに目立たなくなりながらも、1か月間以上残っています。

 なお、ひなが卵歯を使う際、 hatching muscle(孵化用の筋肉)と呼ばれる、後頭部から首の背面に広がる特別な筋肉が活躍します。

 孵化の際、ひなはまず卵歯を殻に打ちつけて穴をあけます。卵には「尖った端」と「尖っていない端」がありますが、ひなが最初に穴をあける位置は、尖っていない端に近いところです(長軸方向で見ると、尖っていない端から約3分の1の箇所)。そこから「輪切り」にするように割り進めます(フンボルトペンギンの場合、尖っていない側から見て右回りに割っていきます)。そして最後に卵の中で足をふんばり、孵化用の強力な筋肉を使って、皿状に割れた殻を押し開き、卵から出てくるのです。

写真:孵化後2日目のフンボルトペンギンのひな
   上嘴先端の少し湾曲した角にある白い部分が卵歯

〔葛西臨海水族園飼育展示係 福田道雄〕

(2009年01月09日)



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