◎文化園四季折々
梅雨から夏にかけてのこの時季は、秋ほどではありませんが、やはり“キノコの季節”。武蔵野の雑木林の雰囲気を残す井の頭自然文化園では、都心では珍しいキノコが見られることもあります。
梅雨時に見つかるキノコの中で、誰もが驚くのはオサムシタケでしょう。キノコの菌糸に寄生されたオサムシはやがて死亡し、その死体を栄養として子実体(キノコ)が生えてきます。死んだオサムシの内臓や筋肉は、すべて菌糸に置きかわっているそうです。なんともホラーな話ですが、昆虫への取りつき方もまたスゴい。オサムシの体表に付着した胞子は、ただちに発芽管という器官を伸ばし、先端から分泌する酵素で昆虫の外骨格をつくるクチクラを溶かし、体内に侵入するというのです。
今回見つかったオサムシタケは、東京動物園ボランティアーズ・サービスガイドの上村一樹さんが2006年6月29日に園内で発見し、撮影しました。背中の色から、アオオサムシに寄生したことがわかります。
オサムシ類は地中で越冬しますが、今回見つかった個体は自分でここに潜りこんだのでしょうか。昆虫に寄生する菌類の中には、寄生する相手の行動を何らかの方法でコントロールし、胞子をばらまきやすい場所に移動させるという種類があるともいわれています。オサムシタケも自分の都合のよい場所に昆虫を誘導したのかもしれません。
中国では、昆虫に寄生するキノコを、「冬は虫の姿をしているが、夏になると草になる不思議な存在」として、冬虫夏草(とうちゅうかそう)と呼びました。不老不死の薬になるとか、中国女子マラソン選手が愛用するほど滋養強壮の効果があるなどと言われている冬虫夏草は、コウモリガの幼虫に寄生する中国産の冬虫夏草であり、そこから抽出した薬効成分は、結核菌や炭疽菌に効果があるとされています。
しかし、冬虫夏草はさまざまな種類があります。井の頭自然文化園でオサムシタケを見つけたとしても、病気に効くとはかぎりません。逆に有害なこともあります。むやみに試すのはお控えください。
〔井の頭自然文化園教育普及係 井内岳志〕
写真撮影:TZV・SG 上村一樹
(2006年7月7日)
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