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卵は孵りません──タンチョウの抱卵
 └─2008/06/13

 井の頭自然文化園の中央にある大放飼場では2羽のタンチョウを飼育しています。2008年5月21日の朝のことです。座りこんでいた1羽のタンチョウに、別のタンチョウが近づいていきました。すると、座り込んでいた個体が立ち上がり、その足元に1個の卵が見えたのです! タンチョウが産卵し、卵を抱いていたのでした。

 私が見たのは、ちょうど抱卵の交替の時だったようです。2羽のタンチョウは、その後も交代で卵を温めていました。ひなが孵化するまでの期間は約1か月。しかし残念なことに、この卵は孵りません。なぜなら、これらのタンチョウは2羽ともメスなので、卵は無精卵なのです。

 じょうずに抱卵しているので、もう少しそっとしておこうと思いましたが、体温の高い鳥のお腹の下では、卵の中身が腐り、破裂してしまうおそれがあります。

 しかたがない、卵を取り上げてしまおう──とも考えましたが、ツルのなかまは通常、1年に1回、2個の卵を産みます。そして2個のうち1個が早期に破損すると、次の卵を産み足す習性があります。ということは、卵を取り上げると、また卵を産んでしまいます。産卵は体力を消耗し、体に負担をかけます。

 そこで、本物の卵に代わるモノを抱かせることにしました。それが擬卵(ぎらん)です。擬卵とは、本物の卵をモデルに作ったニセモノの卵で、重さや大きさは本物とほぼ同じです。

 2008年5月21日の夕方、本物の卵と擬卵を取り替えました。抱卵開始後1か月が経とうとしている今、2羽のタンチョウは、雨の日も巣から離れることなく、交代しながら卵をじっと抱いています。けなげな姿ですが、抱卵を開始して2か月も経つと、巣への執着心がなくなるのか、巣から離れることが多くなってきます。

 大放飼場で抱卵する彼女たちを見かけたら、一生懸命なすがたのタンチョウを見守ってやってください。

〔井の頭自然文化園飼育展示係 齋藤美和〕

(2008年06月13日)



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