◎文化園四季折々
すっかり寒くなり、9月から10月にかけて園内にたくさんあったジョロウグモの巣が、ほとんどなくなってしまいました。昆虫や鳥に食べられたクモもいるでしょうが、この時期にジョロウグモが姿を消すのは、次の世代に命をつなぐ自然の摂理なのです。
前にこのコーナーでジョロウグモを紹介した際、メスは晩秋に産卵して死んでしまうと書きました。記事につけた写真も、成体になったばかりのスマートなジョロウグモです。11月下旬、巣の中央にいた大きなジョロウグモが突然いなくなったら、近くで卵を産み、そのまま力尽きたと考えられます。
モルモットコーナー近くで毎日見ていたジョロウグモは、先週中頃に姿を消しました。となりの巣で今日もまだがんばっているクモは、はちきれんばかりのお腹をしており、産卵間近のようです。ジョロウグモのメスは木の幹や葉の裏に卵塊を産み、糸でカモフラージュして短い一生を終えます。卵塊の中には400から1,500もの卵があり、翌年5月にいっせいに孵化するのですが、その大部分は他の生物の餌になってしまうのです。
さて、今年の夏、当園では日本で初めてミズグモを飼育展示しました。クモの中でもトップクラスの不思議な生態を見せるミズグモをきっかけに、クモの面白さを知っていただくのも展示の目的です。
そこで、9月の平日と休日、特別展をごらんになった来園者 192名にアンケート調査をお願いしました。「来園前にミズグモを知っていましたか」という質問に対しては、40.1%の方が「知っていた」と回答。予想以上の知名度です。子ども向け図鑑に載っていたり、新聞でミズグモ展が報道されたり、おとなりのジブリ美術館でアニメーション「水グモもんもん」が上映されたりしたためでしょう。
次に、特別展を見る前と後でのクモ全般に対する印象を、4段階でお聞きしました。展示を見る前は69.2%の方が「嫌い」「どちらかといえば嫌い」だったのですが、見た後は50.0%まで減少しています。とくに、「嫌い」という方は当初の半分以下になりました。また、「ミズグモを知っていた」という方は、それ以外の方に比べてクモが「好き」という率が高くなっていますし、展示の感想を自由にお書きいただく部分でも、「クモが多少かわいく見えるようになりました」「特別展を見て、クモに対する興味もわいてきました」といったお答えをいただいています。「知る」は「好きになる」第一歩なのです。
Q:これまでクモに対する印象はどうでしたか
嫌い 18.2% |||||||||
どちらかといえば嫌い 51.0% ||||||||||||||||||||||||||
どちらかといえば好き 19.8% ||||||||||
好き 7.3% ||||
無回答 3.6% ||
Q:特別展を見たあと、クモに対する印象はどうですか
嫌い 8.3% ||||
どちらかといえば嫌い 41.7% |||||||||||||||||||||
どちらかといえば好き 33.9% |||||||||||||||||
好き 13.0% |||||||
無回答 3.1% ||
あらゆる動物は、長い進化の中でじつにみごとな能力をもつようになり、動物園・水族館の職員は、知れば知るほどその動物を好きになっていきます。そのため、クモやヘビ、コウモリのように理由もなく嫌われがちな動物については、ぜひそのすばらしさを知ってもらおうと考えるのです。「嫌い」から「ちょっと興味がある」そして「もっと知りたい」「好き」へと、動物園がお手伝いできれば幸いです。
〔井の頭自然文化園教育普及係 井内岳志〕
(2006年11月25日)
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