◎文化園四季折々
昼と夜が同じ長さになる秋分の日と、その前後3日間は秋のお彼岸。この時期に赤く燃えるように咲き、秋の訪れを告げる印象的な花が、その名のとおりヒガンバナです。歴史は古く、日本に稲が伝わったころ、中国から渡来した帰化植物と考えられています。
ヒガンバナには別名も多く、曼珠沙華(マンジュシャゲ)をはじめ、シビトバナ、カジバナ、ハカバナなど、全国で1000以上もの名があるといわれています。これは花の見た目のインパクトだけではなく、人々の生活と深くかかわりがあったためでしょう。よくいわれる曼珠沙華とは、仏教伝説の中で、吉兆として天から降る赤い花、天上の花とうたわれています。
しかし、反対に不吉な名前が多いのも事実です。ヒガンバナは大きな球根(鱗茎)を作りますが、ここにはアルカロイド系の猛毒を含み、かつては土葬の遺体をネズミなどから守るため墓場に植えられました。ただ、この球根にはデンプンが30%も含まれ、よく水でさらせば食用になるため、昔の人は非常時の食料にしました。江戸時代に東北地方を襲った大飢饉の中、ヒガンバナで飢えをしのいだ村は助かったという記録も残っているようです。また、「彼岸」とは「あの世」という意味。毒があってふだん利用しないこの花を食べてしまえば、もう口にできるものはなくあの世に行くしかない──ヒガンバナの名にはそんな理由があるともいわれています。
さて、ヒガンバナの最大の特徴は、花と葉が同時に地上に現れないことです。秋のお彼岸近くなると突然茎が伸びてきて、鮮やかな花を咲かせ、花の後は茎だけが残ります。やがて葉を伸ばし、冬の間球根に栄養を蓄え、翌年ふたたび花を咲かせます。葉のあるときには花がなく、花の咲くときには葉がないことから、韓国では「サンサファ」(相思花)と呼ばれています。花は葉を思い葉は花を思う、という意味です。
井の頭自然文化園の園内では、資料館周辺や第一売店周辺で、また白花種が分園オシドリ舎付近で見ることができます。暑さ寒さも彼岸まで。さわやかなこの季節、ヒガンバナを観察して秋を感じ、1000もの別名をつけた、いにしえの人々に思いを馳せてみてはいかがでしょうか。
〔井の頭自然文化園施設係 SH〕
写真上:ヒガンバナ
写真中:白花種
写真下:資料館裏手で満開のヒガンバナ
(2006年9月22日)
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