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シカの角の「脱皮」──2006/09/08

◎文化園四季折々

 夏が終わり、秋の訪れとともに、井の頭自然文化園のヤクシカに大きな変化がおこります。今まで丸かった角が、するどくとがった角に変わるのです。

 角のある文化園の動物は、ヤギ、ニホンカモシカ、ニホンジカ(ヤクシカ)の3種。ただし、ヤギとカモシカはオスとメスに角があり、かつ、角が枝分かれしていないのに対し、ニホンジカ(以下、シカ)で角があるのはオスだけで、しかも、角は枝分かれしています。また、ヤギやカモシカの角は「洞角」horn、シカの角は「枝角」antlerと呼ばれています(鹿島アントラーズの名は、この「枝角」に由来します)。そして、シカの角は、カモシカやヤギの角とちがい、毎年生えかわります。

 春先、シカのオスの頭から古い角が落ち、新しい角が生えてきます。でも、最初から硬い角が生えるわけではありません。最初は赤い「こぶ」がふくらんできて、やがて枝分かれをしながら伸びていきます。この時期の角を「袋角」(ふくろづの)といいます。

 袋角には血管や神経が通っています。シカの角が伸びるのは、春の袋角の時期だけで、夏になると血液が通わなくなり、成長が止まります。柔らかかった袋角の中も硬くなり、8月下旬から9月頃には外の「袋」が破れ、中から骨質の硬い角が現れます。秋から冬の完成された角を観察すると、表面にゴツゴツした隆起や溝が見えますが、これは袋角の頃の血管のあとなのです。袋角が破れる頃、メスと同じく明るい褐色だったオスの毛色が、首から胸を中心にだんだん暗い色に変わっていきます。

 シカのおおよその年齢は、角の枝分かれでわかります。ヤクシカの場合、生まれた年は角がありませんが、1歳で枝分かれのない角、2歳で一つ枝分かれした角、3歳以上では二つ枝分かれした角が生えます。ヤクシカはふつう二つまでしか枝分かれしませんが、井の頭自然文化園の大放飼場にいるオスは、右の角だけ三つ枝分かれがあります。

 また、個体によって角の大きさや落ちる時期、袋角が破れる時期に差があります。文化園ではヤクシカを大放飼場とシカ舎との2か所で飼育しています。このうち、角のあるオスは大放飼場に1頭、シカ舎に2頭います。大放飼場のオスの角はすでに完成しましたが、シカ舎のオスの角は今まさに袋が破れているところです。ぜひ、くらべてみてください。

写真上:2006年6月7日の袋角(大放飼場の個体)
写真下:2006年9月3日、「袋」が破れ、硬い角が現れ始めた個体(ヤクシカ舎の個体)

〔井の頭自然文化園飼育展示係 太田真琴〕

(2006年9月8日)



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