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井の頭のライオン──2006/05/26
◎文化園四季折々

 井の頭自然文化園には何頭かライオンがいます。なかには檻の外、お客様通路のすぐ横で対面することもあります。

 「え、井の頭にライオンなんていたっけ?」「ケージの外に猛獣がいて、危なくないの?」

 ご安心ください。じつはこのライオン、ブロンズや石膏でできた彫刻作品です。当園には北村西望の作品を集めた彫刻園があり、彫刻のモチーフとしてライオン、トラ、ウマ、ウシ、ネコ、ネズミなどさまざまな動物がいるのです。

 長崎平和祈念像の作者として知られる彫刻家の北村西望は、1884年、長崎県に生まれました。東京美術学校(現在の東京芸術大学)教授を退官してすぐに終戦の日を迎えますが、日本中に色濃く残る戦争の傷跡を悲しみ、郷里である長崎市からの依頼もあって、平和祈念像を制作することになります。

 ただ、この大きさの彫像を制作するには、相応のアトリエが必要です。西望は、彫像制作過程の公開を目的として、井の頭自然文化園内にアトリエを設置したい、と東京都に要望を提出。この要望は、完成後に作品の原型とアトリエを都に寄贈するという同氏の条件のもと、受け入れられました。このアトリエは彫刻園にそのまま残っています。1987年に西望はそこで永眠しました。104歳でした。

 こうした経緯で、井の頭自然文化園には北村西望の作品だけを集めた彫刻園があるのです。「動物園としての井の頭」に来園された方は、彫刻園の存在をごぞんじではなかったかもしれませんね。

 さて、今回とりあげたライオン像、作品名は「獅子奮迅」で、1939年の制作。西望自身、「自分の作った獅子像でもっとも力強い」と語ったそうです。若いオスのライオンをモデルにしたこの像は、大相撲の東京都知事賞として毎場所優勝力士に授与されています。今年の五月場所では、新大関・白鵬が手にしました。テレビ中継でそうとは知らずに目にされた方も多いかもしれません。彫刻園にはもっと大きな獅子像も野外展示されていますが、意外に小さな獅子奮迅像は彫刻館B館でごらんになれます。相撲ファンの方もそうでない方も、ぜひどうぞ。

 「動物園ファンのためのサイト」東京ズーネットで、2回続けて動物以外の話題をとりあげた井の頭情報。ただの動物園ではない井の頭自然文化園の特徴を感じていただければと思います。次回は動物の情報をお届けする予定です。どうぞお楽しみに。

〔井の頭自然文化園教育普及係 井内岳志〕

(2006年5月26日)



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