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オシドリ繁殖ばなし[1]オシドリたちに人気の巣箱
 └─ 2024/12/02(12/22更新)
 オシドリは毎年9月下旬に繁殖期を迎え、子育てが翌年の7月ごろまで続きます。井の頭自然文化園では今年も6羽のオシドリのひなが誕生し、無事に育ちました。

 繁殖期中のオシドリを観察してみるとさまざまな発見が毎日のようにありました。図鑑には書かれていない、動物園だからこそ観察できたオシドリたちの不思議な生態や行動、親子のようすを2回に分けてご紹介します。

Vol.1「オシドリたちに人気の巣箱」

 オシドリはどこに巣をつくるのでしょうか。カモのなかまであるオシドリですが、多くのカモのなかまが地上に巣をつくるのに対して、オシドリは天敵が近づきづらい樹上の木のうろなどを利用して、巣をつくります。

 井の頭自然文化園のオシドリ舎では、形や大きさが同じ巣箱を、地面に3個、地面から1.6メートルの高さに設置したものを7個、合計10個設置しています。


巣箱に入るオシドリのメスとその前に立つオス

 毎年、繁殖期が始まる少し前に、飼育担当者が巣箱の中に巣の材料となる乾草を入れ、いつでも卵を産めるよう準備をします。巣箱に乾草を入れてから数日間は、オシドリのメスがあちらこちらの巣箱に出たり入ったりを繰り返す行動が見られます。この行動は、私たちでいうお部屋の内見のようなことをしているのではないかと考えています。

 形や大きさが同じ巣箱でも、場所によって人気の巣箱というものがあるようで、1つの巣箱に2羽以上のメスが卵を産んでしまうケースが珍しくありません。

 通常、1羽のメスは5~13個程度の卵を産みます。人気の巣箱はいくつかあるのですが、今期、いちばん人気の巣箱の中には25個の卵が入っていました。


いちばん人気の巣箱の中。25個の卵が巣に産みつけられている。
卵の下にはフワフワのオシドリの羽と乾草が敷かれている。

 どのような巣箱が人気なのか、その共通点を探すと、

1.高いところにある
2.巣箱の穴から出るとすぐ下が池である

の2つの点が共通していました。

 1の「高いところにある」は冒頭でも述べたように、オシドリが落ち着いて卵を抱けるか否かが関係しているようです。野生のオシドリは、天敵に見つかりにくい樹上の高い場所に巣をつくる習性があります。そのため、飼育下でも安心できる高い場所を好むようです。

 オシドリは警戒心がかなり強く、実際に地面に置いている巣箱の中で抱卵をしているオシドリは、担当者が巣箱の前を通ると、驚いて巣箱から出てきてしまうことがよくあります。そうすると本来必要な時間しっかりと卵が温められず、卵の発生が止まってしまう確率が高くなってしまいます。

 それでは、2の「すぐ下が池である巣箱」が人気の理由はどうでしょうか? オシドリのひなは孵化してから間もなく、高い樹上の巣からジャンプをして地面に降ります。ひなは生まれてすぐに巣から飛び降りるという試練が待ち受けているのです。そのため、降りた先が地面よりも池の方がダメージが少ないと判断しているのでしょうか、このような条件の巣箱が人気なのかもしれません。

 ちなみに人気の巣箱では、ひなが生まれ、抱卵していたメスもひなといっしょに巣箱の中から出てくると、待っていましたとばかりに次のペアがやってきて、すぐに卵を産み始めます。繁殖成功のカギは、巣箱の争奪戦から始まっているのかもしれません。

Vol.2「オシドリの”保育園”」
 ……といきたいところなのですが、少し長くなってしまったので「オシドリ繁殖ばなし[2]」に続きます。お楽しみに!

〔井の頭自然文化園水生物館飼育展示係 田所〕

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