みなさんは、「オシドリ夫婦」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。
「オシドリ夫婦」とは、仲睦まじい夫婦のことを指しますが、オシドリの多くは毎年ペアを変えるため、実のところ「オシドリ夫婦」でもなんでもない、という話を聞いたことがあるかもしれません。
野生のオシドリのオスは11月ごろから3月ごろの繁殖期に、メスと同じような茶色っぽい羽の色から、お馴染みのカラフルな「繁殖羽」(はんしょくう)に生え変わります。繁殖羽は、色・模様の派手なものが多く、メスへのアピールの役割をもちます。

繁殖羽に生え換わったオス(右)
一方、動物園のオシドリは、栄養状態がよいためか、野生のオシドリよりも少し早く繁殖羽に生え換わる傾向があります。井の頭自然文化園の水生物園にいるオシドリたちも、去年は8月中旬ごろから羽が生え換わり始めました。
通常、繁殖羽に生え換わったオスは、ペアとなるメスを見つけるために「グググ」と低い声で鳴いたり、胸を突き出したりしてメスにアピールをしますが、ここで紹介するオスはそんな悠長なことはしませんでした。
2023年8月30日の朝、まだ全身の羽の7割も繁殖羽に生え換わっていないオスが、しっかりメスとペアになり、行動をともにする姿を発見しました。繁殖期のオシドリのオスは、あの派手な見た目でメスを惹きつけペアを見つけていると考えられていましたが、実際は見た目がすべてではないのかもしれない、と新たな発見でした。
後日談ですが、結局このペアのメスは巣箱に入ることはなく、当然卵を産むこともありませんでした。繁殖期が終わると、「解散!」と号令がかかったかのように2羽は別れ、何事もなかったかのように各々ですごしていました。これはどういうことなのか? 2羽とも10歳を超えるかなりの高齢個体です。繁殖期の盛んなほかのオスとメスの行動に巻き込まれずに落ち着いてすごしたいがために、早々にペアになったのでしょうか。真実は2羽にしかわかりませんが……。
そして偶然にも今年の2024年8月30日のことです。なんとオスがまだ繁殖羽に少しも生え換わっていないのにも関わらず、あの2羽が再びペアになっていたのです!

繁殖羽が揃う前に早々にペアとなったオシドリ(左:メス、右:オス)
昨年は繁殖こそしなかったものの、この2羽はほかのオシドリたちが動き出す前に昨年と同じ相手を見つけ、そして昨年と同じ早いタイミングでペアになっているのですから不思議です。
まさにこのペアこそ、真の「オシドリ夫婦」といえるのかもしれません。
〔井の頭自然文化園水生物館飼育展示係 田所夢衣〕
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