野生のユーラシアカワウソは行動圏の中に複数の休息場があり、日によって違う場所で休みます。井の頭自然文化園の展示場では、土や落ち葉の上で休むこともありますが、岩で組んだ巣穴と木製の巣箱の2つを主な休息場として使っています。しかし、何年も雨風にさらされた木製の巣箱はすっかり古くなってしまったため、このたび新しいものに更新しました。

現在の展示場。右側に岩で組んだ巣穴、左側に木製の巣箱があります
新しい巣箱にくわえた工夫
巣箱を新しくするにあたり、大工仕事を専門とする施設係の職員と相談を重ね、いくつかの工夫を凝らしました。
巣箱の中を来園者の方が観察しやすく、かつ衛生的に保つことができるように、巣箱側面のアクリル板を取り外して洗えるようにしました。カワウソのなかまは夜に活動するため、日中のほとんどを休息場で寝てすごします。以前から巣箱内のすがたを間近に観察できるよう、巣箱の側面のうち観覧通路側の1面をアクリル板にしていましたが、すぐに汚れて観察しづらくなってしまうのが課題でした。ユーラシアカワウソは水に入るうえ、水からあがると体を地面にこすりつけてグルーミングをする習性があるため、どうしてもアクリル板が汚れてしまうのです。

巣箱側面のアクリル板を取り外して丸洗いできるように
飼育係が中のようすを確認するために使っていた開閉式の屋根にも工夫を凝らしました。ユーラシアカワウソが巣箱の上に登ることもあるので、これまでも屋根は頑丈なつくりでしたが、非常に重く、開けた状態での作業が難しいことがありました。今回は屋根の中央部分が観音開きになるようにしたため、開ける際の重量はこれまでの半分になり、作業がしやすくなりました。一方で、ユーラシアカワウソが中から屋根を押し上げてしまう可能性があるため、作業時以外は鍵を付けてしっかりと固定できるようにしています。

屋根を半分開けたようす
完成した巣箱を展示場に入れてみると……
【動画】初めて目にする巣箱を慎重に確認するようす
突然現れた大きな物体に警戒しつつも、しっかりと確認しながら少しずつ距離を縮めています。ユーラシアカワウソは警戒心が強いため、巣箱を利用するまでにはしばらく時間がかかるだろうと考え、ようすを見ながらじっくり待つことにしました。
1日目
巣箱の外側に足跡がついていますが、中に入った形跡はありません。
2日目
巣箱の外側についた足跡の数が増えています。
3日目
巣箱の中に足跡がついていました。どうやら夜のあいだに中に入ったようですが、開園時間中に休んでいるようすを確認することはできませんでした。
その後……
自然に入ってくれる日はいつなのかとやきもきしながら待ちつつも、巣箱への次の誘導策を考えながら1週間が経過したころ……

巣箱の中で休んでいるところを確認できました!
そのあとも継続して利用しており、どうやらこの巣箱の中で安心して休むことができるようになったようです。ただし気分しだいで、新しい巣箱で休むこともあれば、これまで通り岩の巣穴で休んだり、土や落ち葉の上で休むこともあります。どうやら、複数の休息場を使うという野生でのくらしに近い使い方をしているようです。
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岩の巣穴 | 土の上で休むようす |
観察のポイント
岩の巣穴で休んでいるときは、残念ながらユーラシアカワウソを観察できません。そんなときは、少し時間を置いて別の時間に観察してみてください。特に夕方のえさの時間前後には活動的になり、巣箱に移動して休んでいるようすや動きまわるようすが観察しやすくなります。
そして新しい巣箱の中で休んでいるときにはぜひ、間近で体のつくりを観察してみてください。水による体温の低下を防ぐ密度の高い体毛や、水の流れを敏感に感じ取るたくさんのひげ、水の中で抵抗が少ない小さな耳、前足と後ろ足の水かきなど、水辺でくらすのにぴったりなカワウソの特徴を、きっと発見できるはずです。

新しい巣箱で休むようす
〔井の頭自然文化園飼育展示係 大河原陽子〕
(2023年05月27日)