井の頭自然文化園の水生物館では、アユが泳ぐ「中流域」水槽でモクズガニを展示しました。モクズガニは甲羅の幅が8センチにもなり、川にすむカニの中では最大種です。
「中流域」水槽ではアユやオイカワが泳ぎまわり、一見すると魚だけの水槽に見えますが、水槽の底をよく観察してみてください。岩の隙間にモクズガニがじっとしていたり、さかんに動き回ったり、中には岩をよじ登って水から出ようとしている個体も見られます。
モクズガニは、水から出ても長時間活動ができます。ちょっとした凹凸などがあると、それを足がかりに垂直面でも平気で登ってしまう“ロッククライマー”でもあります。今回、モクズガニを展示するために、水槽上部にカニが登れないような「カニ脱出防止柵」を設置しました。今のところおとなしくしていますが、まだまだ油断はできません。
日本全国の河川に生息し、東京では多摩川や荒川などに生息しています。川にすむカニといえば、みなさんもよく知っているサワガニが有名ですが、このモクズガニはサワガニ同様、食用にもなります。
サワガニと大きくちがうところは、大型になるだけでなく、その大きなハサミの部分に毛が生えているところです。また、サワガニは川で一生を過ごしますが、モクズガニは産卵のために川を下り、河口や近くの海で産卵します。卵からかえった幼生はプランクトンとして海を漂って生活し、小さなカニの形になると川を上りはじめます。そして成長しながら、川の中流から上流まで上っていくのです。
東京ではとても少なくなってしまいましたが、他の地域ではカニカゴなどを使った漁で捕獲されます。今でもさまざまな料理で使われる、「知る人ぞ知る」美味なカニなのです。
〔井の頭自然文化園水生物館飼育展示係 中村浩司〕
(2009年08月21日)
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