生物に直接手でふれることができる水槽を「ふれあい水槽」とか「タッチ水槽」などと呼んでいます。この手の水槽の管理運営の最初のハードルは、「いかにふれられるか」と「生物が死なないこと」のバランスです。水生物館では、死亡ゼロを基本に、ふれやすさを追求しています。
水生物館のふれあい水槽には、ウグイのほかにコイとフナが入っています。かつては、水槽に手を入れると、魚たちは人の手が届かない避難場所にすぐに入ってしまって、実際に魚にさわれるお客さんはとても少なかったはずです。
でも、避難場所がないとさわられ放題になり、魚は死んでしまいます。ですから、この水槽のことを「ふれあい水槽」とは位置づけないで、逃げるようすを観察してもらい、魚群の行動パターンと意味を説明する「魚の群れの機能を感じる水槽」ととらえ、こちらとしては「さわれなくてもしょうがない」と考えていました。
しかし、ほとんどのお客さんは「さわる」ことや「つかまえる」ことに大きな関心があります。年に1~2度は魚をつかんでいるたくましい子どもを見かけることもありましたが、多くのちびっ子たちは、避難場所に群がる魚を見て、「出てこない」と感じるだけだったに違いありません。
なんとか改善できないかとずっと考えていましたが、ようやく出口が見えてきました。手を入れると逃げていた魚を、手を入れると寄ってくるようにトレーニングすることにしたのです。追いかけるだけで、決して魚にはさわろうとしなかったちびっ子たちも、最近は魚にさわれるようになってきて、歓声と笑顔、驚きの表情が見られるようになってきました。
さわられることで魚が死んでしまうようでは、この作戦は失敗ですが、方針を変更してから半年以上が経った現在、いまだ1尾の魚も死んでいません。さらに工夫を重ね、ちびっ子たちとの距離を縮めて、魚に親しんでもらい、興味や関心をもってもらいたいと考えています。
〔井の頭自然文化園水生物館飼育展示係 荒井寛〕
(2008年11月28日)
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