多摩動物公園では2009年秋に釧路市動物園からオスの「リング」を1年間借り受け、メスの「シズカ」とのあいだに2010年7月、3頭の子が生まれました。子どもたちには、そのころに活躍したアスリートから名前をいただき、オスは「ケイスケ」、メスは「アイ」「マオ」と名付けました。
リングはその年末に円山動物園に旅立ちました。その直後、ケイスケは残念ながら死亡しましたが、アイとマオは無事に生育し、マオは2013年6月に帯広動物園へと旅立ちました。
残ったのは母親のシズカとアイです。野生のトラは1歳半〜2歳ほどで親離れし、1頭で縄張りを作って生活するようになりますが、メス同士の親子であることと、2頭でいる方がじゃれあったりして動きが多くなり見応えもあるので、アイが3歳になっても外の運動場では一緒にしていました。
子育てが終わっているシズカは子を冷たくあしらうことも多くなってきましたが、アイにはまだシズカに甘えるような姿が見られます。母親に対する依存心が強いと、今後オスを導入して繁殖や子育てをおこなう上で弊害が出る恐れがあります。
アイの母親シズカの場合、両親が繁殖のために他の施設に移るのが早かったので、シズカは1歳4か月で単独生活になりました。しばらくは一日中鳴いて過ごす日々でしたが、それを乗り越えて精神的に大きな成長を遂げました。元来は大人になると単独で生活する動物ですから、親から離れることは精神面の発達にも大きく作用するのでしょう。
アイはすでに3歳になり、かなり遅めではありますが年末から本格的に親離れをさせ始めました。もともと室内では別々の部屋に収容していましたが、常に姿の見える隣同士はやめ、一部屋離し、運動場には午前と午後で入れ替えて出すようにしました。
アイは初め情けない声で鳴きながら、とても不安そうに母親を探していました。自由に運動場を歩き回ることもせず、扉の付近をうろうろするばかりでした。予想していたより強く母親に依存していたようです。
一方シズカは涼しげな顔で、ふだんよりも伸び伸びとしています。遊具で存分に遊ぶようにもなり、子と離れることで持ち前のやんちゃな気質を取り戻したようです。
2か月が経過した現在、アイは1頭だけの生活にもだんだん慣れ、出入りもスムーズで運動場にいても落ち着いた姿が多く見られるようになりました。
ただ、完全に母親と分けられているせいか、淋しげな声で「ワォーン、ワォーン」とよく鳴くようになりました。母親のシズカも時々鳴くようになり、これは単独で生活するトラ本来の行動のようです。お婿さんが来るまでにアイがどれほど魅力的なメスへと成長してくれるか分かりませんが、今後を見守りたいと思います。
写真上:アムールトラの母親「シズカ」
写真下:子どもの「アイ」
〔多摩動物公園南園飼育展示係 熊谷岳〕
(2014年03月07日)
|