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ホオアカトキの巣箱の隙間でインカアジサシ繁殖
 └─多摩  2016/09/09

 今年(2016年)、多摩動物公園のトキ舎で2羽のインカアジサシが育ちました。鮮やかな口紅を塗ったようなくちばしと、手入れの行き届いたひげにも見えるユニークな飾り羽をもつインカアジサシは、ペルーからチリまでの太平洋岸に分布するカモメ科の鳥です。通常、数千羽の大群でくらし、岩穴や岩の割れ目に巣を作ります(たまにミズナギドリ類やフンボルトペンギンが使っていた巣穴を利用することもあります)。

 多摩動物公園の12羽のインカアジサシは、2年前に上野動物園から来園。そのかわいらしい姿と、えさを採るときの独特な行動で人気があります。えさのバケツをもった飼育係が現れると、その頭上でインカアジサシたちはホバリングしながら待ち構え、垂直に投げ上げられた魚を巧みにくちばしで捕らえます。見ていた来園者の方から拍手が湧き上がるほどです。

ホオアカトキの巣箱の隙間を
インカアジサシ用の部屋に(白い円内)
インカアジサシ用の部屋(拡大)

 来園して2年目、ようやく環境に慣れたのか、多摩動物公園で初めての繁殖が見られました。今年はホオアカトキが使用している巣箱の隙間にレンガで枠を作り、中に浅く砂をしいて、インカアジサシ用の部屋としました。ケージ内に同居しているホオアカトキは肉食性が強いので、卵やひなが食べられないよう、侵入防止の板を設置しました。

 6月4日、待望の1羽目のひなを確認しました。孵化後15日を過ぎ、2回も巣台から地上に落下してしまいましたが、ひなは幸い無事で、両親が地上でもしっかりと面倒をみているため、そのまま地上で育てさせることにしました。

巣箱内部
えさをねだるひな
ひなにも立派な飾り羽がある

 ひなは孵化後1か月程で巣立ちますが、地上育ちの雛は52日目に飛翔が確認され、巣立ちと判断しました。巣立ち後、自分でえさを採れるようになっても、親が近づくと、おねだりポーズをとって給餌を受けていました(さすがに、孵化後81日経つと、ひながおねだりポーズをしても親はえさを与えなくなりました)。

 別の巣台で孵化したひなも、9月5日に巣立ちました。ひなたちはくちばしが黒く、全身灰色の幼羽の姿ですが、ひげのような飾り羽は立派に生えています。

 2羽の愛くるしい姿を──そして、えさをおねだりしても親にあっさり断られる親子関係を──多摩動物公園でぜひご覧ください。

〔多摩動物公園野生生物保全センター 川鍋政孝〕

(2016年09月09日)


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