go
 海では実にさまざまな形の生物にお目にかかれます。ここ葛西臨海水族園でもいろいろな形の魚がいます。では、魚の形はどのようにして決まるのでしょうか。
 魚は水の中にすんでいます。水の中では体が軽くなるため、体重を支える仕組みがいりません。ということは、体の形の制約がなく、自由なデザインが可能なのです。ところが、実際には体のデザインにさまざまな制約があります。たとえば空気とくらべると密度の高い水の中では、速く泳げば泳ぐほど抵抗が大きくなります。この抵抗のために、魚の形は制約をうけます。ゆっくり泳いで暮らすか、速く泳いで生活するか、魚の生活のしかたが体の形に大きな影響を与えるのです。
 また、魚は種類ごとに独自の進化の歴史があります。魚の形は、その祖先の形を無視しては語れません。いわば御先祖様からの遺産とでもいえるものです。かつての遺産をひきつぎながら、現在生きている魚のデザインが決まってきたわけです。ところが先に述べたようにデザインには可能性と制約性があるため、ときにはまったく親戚関係がない魚でも同じようなデザインになることがあります。ですから、魚の形はさまざまな可能性と制約を、その魚なりの歴史性をもって解決してきた結果といえます。
 なお、魚の泳ぎと形に密接な関係があることはいうまでもありません。魚はおもにひれを使って泳ぎますので、ひれの位置と名前、また代表的な魚の形を紹介しておきます。
●サメ
  それでは水族園に展示されている魚の形をみていきましょう。まずはじめはサメ。メジロザメをみてください〔現在の展示はスミツキザメ〕。典型的なサメの形をしています。2枚の背びれ(前が第1背びれ、うしろが第2背びれです)、上と下とでずいぶん形と大きさがちがう尾びれ、そして腹側に大きな口があります。サメは原始的な体のつくりをした魚です。形のいびつな尾びれはサメが原始的であることを示す特徴のひとつです。また、体の断面にも注目してください。三角形になっています。
●マグロ
  つぎはいよいよ水族園のヒーロー、マグロです。マグロの仲間は、魚類のなかでもっとも速く泳げる種類のひとつです。そのため、体は水の抵抗が少なくてすむ、前後がとがった形をしています。この形は布を織るときに使う「紡錘」(ぼうすい)という道具に似ていることから「紡錘形」と呼ばれています。
  紡錘形は速く泳ぐのに適した形なので、魚類以外の動物でもみられます。たとえば、哺乳類のイルカやクジラです。また、水族園にいる鳥類のペンギンもそうです。このような速く泳ぐ生物は、水の抵抗を少なくするために、みんな同じような形にならざるをえないのです。体の断面は卵形をしていますが、自然の海でよく太ったマグロではもっと円形に近くなります。
●側扁形の魚たち
 「世界の海」にはさまざまな形をした魚類がいます。「カナダ沿岸」の水槽にはサーフパーチの仲間がいます。このように左右から押しつぶされたような形を側扁形(そくへんけい)といいます。魚類の中ではもっとも多く、前からみるとやせていて、体高の高い形です。側扁形は適度な速さで泳ぐのも、旋回も、ときにはバックもできる万能型の形です。
シャイナーサーフパーチ
●ウツボ、アナゴ、ウナギの仲間
 「グレートバリアリーフ」の水槽にはウツボがいます〔現在は「南シナ海」〕。ウツボやアナゴ、ウナギの仲間には腹びれがありませんし、胸びれのない種類もいます。体は細長く、体の断面は楕円形や円形をしているのが特徴です。体全体を使い、クネクネと泳ぎますが、ふだんは岩の割れ目などに隠れていて、あまり泳ぎまわることはありません。
ハナヒゲウツボ
●フグ
 「渚の生物」や「東京の海」ではクサフグが泳いでいます〔現在はシマキンチャクフグ〕。体の高さと幅がほとんど同じで、体の長さが短いのが特徴です。いわばフグ形とでもいえる形です。怒って水や空気を吸い込んだときにボールのようになります。体をふくらませるのは、敵をおどすためだといわれています。
シマキンチャクフグ
●「ひらひら」つきのシードラゴン
 特設展のコーナーにいる2種類のシードラゴンはヨウジウオの仲間です〔現在「インド洋」にリーフィシードラゴン1種を展示〕。ヨウジという名前のとおり、細長い円筒形の体をしています。でも、ここにいるシードラゴンの体にはたくさんの「ひらひら」がついています。これは皮膚が変化したもので、「皮弁」(ひべん)といいます。こんなにたくさんの皮弁があれば、速く泳げないのはすぐわかります。
リーフィーシードラゴン
●縦扁形の魚たち
 「東京湾口」の水槽の上にはキアンコウがはいつくばっています〔現在は「北アメリカ東部」にグースフィッシュを展示〕。キアンコウのように上下から押しつぶされたような形を縦扁形(じゅうへんけい)といいます。アンコウやエイの仲間にみられる形で、海底にはいつくばって生活する魚がこのような形をしています。また、同じ水槽にカレイやヒラメ類がいます。これらは一見、縦扁形ですが、じつは側扁形の魚で、体を横たえて生活しているのです。カレイやヒラメ類の祖先はアジの仲間ではないかといわれています。アジのように側扁形で海の中を泳いでいる魚の中から、海底の生活にも適応し、両眼が片側に移動したものが現われて、アンコウなどと同じような生活を始めたのではないかと考えられています。この水槽の魚に共通する特徴は、ふだんはほとんど泳がず、獲物が近づくのをじっと待っていて、大きな口でパクリと食べることです。
グースフィッシュ
 このようにみてきますと、速く泳がない魚にはさまざまな形があるのがわかります。それぞれの魚の生活、あるいは祖先の形をひきずってそのデザインが決まっているのです。ここでは基本的な形だけしか紹介できませんでしたが、水族園にはこの他にもいろいろな形をした魚類が泳いでいます。泳ぐ速さや、すんでいる場所でどのような共通性や違いがあるかを観察してみてください。(Sea Life News、June/1990より)
Sea Life Serialは(財)東京動物園協会が1990年6月から2000年10月まで通算53号発行した葛西臨海水族園のニュースレター Sea Life News に掲載されたシリーズです。なお、掲載にあたって一部改変箇所があります。