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お母さんの子育て、アークティックアイソポッド
 ──葛西 10/3
 先日、北極海の水槽で、アークティックアイソポッドのメス1匹が、触角にたくさんの子どもをつけて、子育てをはじめました。

 アークティックアイソポッドは、甲殻類のなかでも、ワレカラやフナムシなどとともに「フクロエビ類」と呼ばれています。フクロエビ類は、かわった子育てをすることで知られています。

 産み出された卵は、いったんメスの胸部にある「育房」とよばれる保育嚢におさめられ、親とおなじかたちに成長するまで、そこにとどまります。



 アークティックアイソポッドの場合、メスの育房から出た子どもは、すぐにその母親の触角につかまります。くわしい生活史はわかりませんが、子どもは1年以上触角の上で生活するようです。



 子育てをはじめたアークティックアイソポッドのお母さんは、水槽奥のやや左側の壁から生えている海藻につかまっったまま、あまり動きません。この場所には、水槽内で循環させている水がよくあたるのです。

 また、子どもたちに新鮮な海水を送るためでしょうか、それとも水中にただよっている餌を捕りやすくするためでしょうか、お母さんはときどき体をそらせたり戻したり、触角を大きく振り上げたり、いろいろな動きを見せます。親も子も、体の前半部にある「くし状」に変化した脚で、浮遊する餌をこしとって食べます。



 私が3年前の夏に北極海にもぐって観察したときは、自分の体長の3分の1ほどもある子どもをたくさん背負ったメスがいました。甘えん坊の子どもをもった親が苦労するのは人間もアイソポッドも同じだなあ、と変なところで感心してしまいました。

 それにしても、触角の力は相当なもののはずです。子育てをするために特化したものといえるでしょう。オスもメスとおなじような触角がもっていますが、子育てをしないオスにとって、この触角は大きすぎるかもしれません。



 水族園では今までにも、子育て中のメスを展示してきましたが、それは来園した時点ですでに子どもつきだったのです。飼育中に子どもをつけたのは、今回がはじめて。触角にどれくらい長居をするか、観察するのによい機会です。 じつは、水槽の右上で、もう1匹のメスも子育てをはじめました。2003年10月3日現在、まだ十数匹しか触角についていませんが、育房が真っ白にはち切れそうになっているので、これから続々と子どもたちが出てくるにちがいありません。          

〔葛西臨海水族園調査係 池田正人〕


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