ニュース
奇怪な生き物、ヤマトメリベ──葛西 5/23
 水族園で働いていると、じつにさまざまな生き物に出会うチャンスがあります。図鑑の絵や写真でしか見たことのなかった生物の生きたすがたを初めてこの目で間近に見る──その興奮は、ことばでは尽くせないほどのものです。

 ときには、図鑑でさえなかなか見られない、とってもめずらしい生き物に出会うこともあります。そんなときは、職員みんな大興奮。「なんとか、来園者にも見せたい! この驚きを伝えたい!」という気持ちがつのります。

 今回紹介するヤマトメリベは、まさにそんな生き物です。

 現在「実験展示」コーナーに展示されているヤマトメリベ、まずはそのすがたを見てください。体の大きさは約40センチ。ピンクがかった透明の体に、朱色の斑点。背中には7対の突起があり、頭には“頭巾”のようなものがついています。そして、頭巾の内側にはビラビラがたくさんついています。う~ん、美しくも妖しい姿形ですね。

 泳ぐとき、ヤマトメリベはクネクネと体全体をくねらせ、頭巾を大きく開いたり閉じたりしています。いったいこの頭巾はなんなのでしょう?

 じつは、餌をつかまえる捕虫網のようなものなのです。生きたアミや小魚が入ると、フードをギュギュギューッとおどろくほど大きく開き、餌を包み込むようにして捕らえます。頭巾が閉じると、餌となる生物は中に閉じこめられてしまい、その後、頭巾の真ん中にある口へと送り込まれます。姿形だけでなく、餌の捕り方もちょっと奇怪な感じですね。

 ヤマトメリベはウミウシのなかまですが、ウミウシのなかでも、こんなに変わった餌の捕り方をするのはメリベウミウシのグループだけです。いずれも頭が頭巾状にひろがっていて、それで小さな甲殻類などを捕らえて食べているようです。

 展示されているヤマトメリベは、鹿児島の漁師さんが海で泳いでいた個体を網ですくって採集し、送ってくれました。毎年冬から春にかけての季節、ほんの数日のあいだだけ、岸近くを泳いでいるのが発見されるそうで、図鑑で調べても、遊泳性であるということ以外、生態はよくわかっていないようです。

 もう一つ、興味深いことがありました。ヤマトメリベの体に少しでも触ると、つよい柑橘系のにおいを出すのです。そのにおいはとても強く、しばらく部屋がそのにおいでいっぱいになるほどでした。捕食者から身を守るためのにおいなのでしょうか? とてもふしぎです。

 においといい、餌の捕り方といい、ヤマトメリベと出会って、あらためて生き物のおもしろさを感じるとともに、こんな「変なやつ」がくらしている海のおもしろさを実感しました。頭巾で餌をとる、妖しい生き物をぜひごらんあれ!

〔葛西臨海水族園調査係  天野未知〕



ページトップへ