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多摩の虫ごよみ──オトシブミの失敗
 └─多摩  2016/07/01

 先月(2016年6月)、東京ズーネットのニュース記事で、植物と昆虫が作り出すゆりかご、「虫こぶ」のお話をしました

・記事「とんがりあたまの正体」(2016年6月3日)

 今回は、ちょうどその頃園内で見られた、昆虫が自分の子のために自らの手で(脚で?)作るゆりかごのお話です。


ヒメクロオトシブミのゆりかご

 「オトシブミ」というと、聞いたことはあるけれど実際に見たことはない、という方が多いのではないでしょうか? オトシブミは甲虫のなかまで、幼虫が育つためのゆりかごを作ることで知られています。

 昔、秘めた思いを巻紙を使った手紙にしたため、相手が気づくようなところにそっと落とした「落文」(おとしぶみ)という風習がありました。葉を巻いてできるゆりかごが落文に似ていることから、そのまま昆虫の名に用いられるようになりました。

 オトシブミにはさまざまな種がいますが、多摩動物公園では5~6月にかけて、ヒメクロオトシブミやカシルリオトシブミなどがよく見られます。今回ご紹介するのはヒメクロオトシブミです。

 ヒメクロオトシブミに限ったことではありませんが、その生態の中で驚くべきは、その几帳面な仕事ぶりと力強さです。体長1センチにも満たない小さな体で、何倍もの大きさの葉を丁寧に巻き上げていきます。その手順は、

1 葉の根元の近くを、左右の端から主脈に向かって切れ目を入れる
2 葉の裏側の主脈に沿って噛み跡をつけ、折り畳みの箇所を作る
3 葉の先端から巻き上げていく
4 巻き戻らないよう、巻き上げた葉の端を反転させて、できあがり


葉を切るヒメクロオトシブミ

 葉の主脈に沿ってつける噛み跡をつけることにより、そこで折り畳みやすくなるだけでなく、葉がしおれることで巻き上げやすくなります。巻き上げていく過程でも、しっかりとゆりかごの形になるように、そして巻き戻らないように、さまざまな工夫を凝らしながら進めていきます。

 巻き上げる途中で、ゆりかごの中心部に卵を産みつけます。孵化した幼虫はこのゆりかごを食べながら育つのです。オトシブミとはいうものの、ゆりかごは必ず落ちるものとも限りません。主脈や葉の一部をくっつけたままぶら下がっているものも多くみられます。しかも、同じ種、同じ個体でも、落とすときと落とさないときがあるようです。


葉を巻き上げるヒメクロオトシブミのメスとそばで待機するオス

 と、ここでもう一度、葉を切っている上の写真をよく見てみてください。切れ目を入れている箇所より根元側にも切れ目が入っています。しかも、左右から切った線が一直線に並んでいないのです。もしかしたら、このヒメクロオトシブミは最初に失敗したのかもしれません。ゆりかご作りの仕事人もこんな失敗することがあるのかと、つい心が和みます。でも、一度失敗してもあきらめず、2度目のチャレンジをしたヒメクロオトシブミを見習わなくてはなりませんね。

〔多摩動物公園昆虫園飼育展示係 古川紗織〕

(2016年07月01日)


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