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フタホシコオロギの垂れ幕引き
 └─多摩  2012/09/07

 昆虫の習性の大部分は、本能行動からなると考えられていますが、変化する自然の中でくらしている生物ですから、いろいろな学習もしているはずです。いわゆる普通の昆虫が、ふだんのくらしの中で見せるような学習能力を伝えたいと思い立ち、フタホシコオロギの訓練に挑戦しました。ほかの動物の訓練を参考にして、コオロギが望ましい行動をしたら「ごほうび」に水滴を与えて条件づけることで、「目標物を追跡して体重計を昇降する」という行動を学習させました。その結果に目途が立ってきたころのことです。

 昆虫を訓練できるなら、もう少し華やかで人目を引きそうな「芸」もさせてみたいなと思いました。
 ところがコオロギには、何かをつかんだり運んだりするような行動は難しいですし、物を口でくわえても、それを離すことを教えるのは時間がかかりそうです。とりあえずコースを作り、ジグザグ歩きをさせてみることにしました。

 発泡スチロール製の箱の中に手近にあった待ち針を刺し、コオロギ用のスラローム・コースを作ってみましたが、中のコオロギはコースの先頭のポール(待ち針)にしがみついて離れません。「こんなこともできないなんて」と、がっかりしたのもつかの間、次のアイデアがひらめきました。

 コオロギを訓練するときの「ごほうび」は、注射針の先から出した1粒の水滴です。そして、スラローム・コースに使った待ち針は、ステンレス製針の頭に真珠状の球がついています。コオロギが待ち針にしがみつくようすを見ると、やや伸びあがり、針を前脚で押さえながら、球をなめているのです。待ち針の球を注射針についた水滴と勘違いしているのかもしれません。そこで、待ち針を糸でつるしてコオロギの目の前に見せると、針を引き寄せようと前脚でたたき続けています。できました!「レバー押し」行動の完成です。

 あとはこれまで成功してきた手法を使って、待ち針に向かって歩く行動を教えると、「垂れ幕引き」の芸が完成しました。

 動画の撮影もワンテイクで無事に完了しました。

【コオロギの垂れ幕引きの動画】
 Windows Media形式 QuickTime形式

※コオロギの学習訓練法について、東京動物園協会友の会会員誌「どうぶつと動物園」2012年夏号で詳しくご紹介しました。ぜひご一読ください。

〔多摩動物公園昆虫園飼育展示係 田畑邦衛〕

(2012年09月07日)



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