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クーデターを乗り越えて、ハダカデバネズミの介添え哺育
 └─上野  2012/07/06

 上野動物園小獣館の1階ではハダカデバネズミを展示しています。ハダカデバネズミ(以下「デバ」と省略)は、哺乳類では唯一社会性のある群れでくらす動物です。アリやハチのように、繁殖する1頭のメス(女王)を中心にして、繁殖オス、兵隊、雑用係というように、役割を分担しています。

 展示群は47頭いますが、バックヤードでは7頭の予備群を飼育しています。この7頭は、2012年1月に展示群から分けたのですが、しばらく女王が不在でした。ところがこの春、1頭の妊娠を確認しました。女王の誕生です! 

 そして5月19日には11頭の赤ちゃんが生まれました。授乳も見られ、順調に育っている、と思ったのもつかの間、6月3日に「クーデター」が勃発! 女王の体は傷だらけで、左後肢を骨折して重傷です。犯デバと思われるメス2頭もケガをしていました。

 デバはアリやハチとちがい、生まれつき女王になる個体が決まっているわけではありません。すべてのメスが女王になる可能性をもち、彼女たちは常にその座を狙っています。女王は2日後に手当のかいもなく死亡しました。

 残された子はミルクを飲むことができません。デバの離乳は生後約1か月です。このとき生後17日目の子たちは、少しずつ餌を食べ始めていましたが、まだミルクが必要と判断し、飼育職員が哺乳することにしました。 

 子を群れから離してしまうと社会性が身につかず、うまく育たない可能性があります。そこで、哺乳のときだけ取り上げ、終えたら群れに戻す「介添え哺育」という方法をとりました。朝夕1日2回、注射筒で数滴のミルクを飲ませました。

 その後、体が一番小さかった個体が死亡しましたが、10頭は順調に育ち、生後33日目に離乳しました。以前はおとなが運んできた餌を食べていた子たちですが、今では自分で餌場に行ったり、餌を居室にもち帰ったりしています。体はまだまだ小さいのですが、ウッドチップを運んで、すでに働き始めているようすも見られます。

 7月3日には、展示群でも赤ちゃんが生まれました。群れでデバの子育てを見ていただけるかもしれません。どうかクーデターが起こりませんように……。

写真上:体重測定、哺乳初日は2.9〜3.9グラム。
写真中:注射筒で哺乳。すでに「デバ」の顔。
写真下:大きくなりました、筒の直径は5.5センチ。

〔上野動物園西園飼育展示係 宮田桂子〕

(2012年07月06日)



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