ニュース
働きバチの越冬とネジレバネ
 └─多摩  2012/04/27

 2012年、年明けから間もないころ、園内にスズメバチの空き巣があると同僚から教えてもらいました。場所は飼育管理事務所の裏山で、すっかり葉が落ちて見通しが良くなった雑木林の梢に、茶色いうろこ模様の球形の巣が目立ちます。今年の冬は気温も低く、家主のハチはすでに死んでしまっているでしょうから、教材用に採集することにしました。

 1月19日、植栽管理担当職員にも応援を頼み、現場に向かいました。現場は背丈ほどのササやぶに覆われた急斜面で、巣も高さ8メートルほどの枝についています。応援を頼んだおかげで、45リットルゴミ袋にギリギリおさまるほど大きな、重さ 1.6キロの立派なキイロスズメバチの巣を手際よく採集することができました(私は地上から応援していただけでしたが)。

 想定外だったのは、巣を地上に落とした際に空いた外壁の穴から、生きている働きバチが見えたことでした。この日の最高気温は10℃。寒さでハチが飛べないことにホッとしましたが、越冬できないはずの働きバチが真冬でも生きているのは不思議です。

 収穫に満足して気がつきませんでしたが、後日、もしやと思い、巣内に残っていた働きバチの腹部を確認すると、まるでペコちゃんの舌のように、ハチの腹部環節間から丸く茶色い円盤状のものが1つ見えました。やっぱりいました!スズメバチネジレバネのメス成虫の頭胸部です。

 ネジレバネ類は、ネジレバネ目(撚翅目)に属する完全変態の昆虫で、594種(国内は 49種)すべてがほかの昆虫に内部寄生します。メスは死ぬまで寄主を離れず、触角、眼、口器、脚、外部生殖器などが退化し、頭胸部が癒合したウジ虫状の体をしています。

 体長数ミリ程度のオスは羽化すると寄主を離れますが、もっとも成虫期間が長いスズメバチネジレバネでも4時間ほどで死んでしまいす。また、寄生する昆虫の多くは、羽化するときに寄主を殺してしまう「捕食寄生者」ですが、ネジレバネ類だけは、寄主の体内で栄養をもらいながら共生する真の寄生者です。

 ただし、寄生の結果、寄主が繁殖できなくしたり(ネジレバネ去勢)、メスが寄生すると寄主を延命させたり(通常年内に死亡する働きバチを越冬させるなど)、寄主の労働力を奪ったり(働きバチが働かなくなる)することが知られています。

 このような習性のため、姿を目にする機会はなかなかなく、ファーブルも観察はしていません。また、特殊な形態をしているため、ほかの昆虫との系統関係がよくわからない(「ネジレバネ問題」として有名)など、以前から気になる存在でした。今回は思いがけずその姿を観察することができ、「瓢箪から駒」ならぬ「ハチの巣からネジレバネ」でした。

写真上:採集したキイロスズメバチの巣
写真中上:巣内でまだ生きていた働きバチ
写真中下:ハチの腹部環節間からスズメバチネジレバネが見える(矢印)
写真下:ハチの腹部内いっぱいに成長したネジレバネのメス成虫

〔多摩動物公園昆虫園飼育展示係 田畑邦衛〕

(2012年04月27日)



ページトップへ