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ミズグモの採集
 └─井の頭 2011/11/11

 ミズグモは、世界で唯一水中生活をするクモとして知られています。一番後ろの脚2本と腹部とで地上の空気を水中に運び、自分の体がすっぽり入る気泡のような巣を作り、そこを拠点に餌を探しまわって生活します。

 井の頭自然文化園で展示しているミズグモは、園内で繁殖させた個体を中心に展示していますが、次世代の血統を更新するため、毎年新しい個体を採集により補充しています。

 2011年10月25日から27日まで、北海道の海岸近くにある湿地で採集をおこないました。ミズグモは北海道を始め本州や九州の一部でも生息が記録されているようですが、今回訪れた湿地帯は、過去に幾度か採集をおこなった場所で、ミズグモが比較的多く、野生でのようすも調査できるフィールドとしては好適な場所だと考えています。

 しかし、ミズグモはこの湿地帯のどこにでもいるわけではなく、生息している場所がかなり限定されているようです。私たちは胸まである胴長を履いて湿地の中に入り、東京よりかなり冷たい強風の中、柄の短いタモ網で地道に水生植物の根元付近をすくっていきます。1匹が見つかるとその周辺でいくつか採れることから、彼らがとくに好む環境があるようです。

 今回は、数か所の湿地で調査しましたが、結局採れたのは 100メートルくらいの範囲にある2か所だけでした。この湿地には、ミズグモのほかにも、水生植物の上でくらすゴマ粒より小さなものから大豆くらいの大きさのものまで、数種のクモが見られました。すくったときにこれらのクモも網の中に入るのですが、ミズグモは動きが緩慢なのと、空気を運ぶための細かい毛が生えている腹部が水をはじいて艶消しの灰色になるため、容易に区別できます。しかし、水中にあるミズグモの巣は、水の透明度が余りよくなく、また巧みに見えないように作られているためか、水面からは確認できませんでした。

 水生物館に着いたミズグモを1匹ずつ小型のケースに移し、水に入れると、すぐに空気ドームのような巣を作りました。来春にはたくさんの子どもを産んでくれることを期待しています。なお、ミズグモとその巣のようすは、水生物館のミズグモ水槽でごらんください。

・東京ズーネットBB動画「水中で生活するミズグモ」(2006年8月撮影)

写真上:採集地の湿地
写真下:網に入った成体のミズグモ

〔井の頭自然文化園水生物館飼育展示係 池田正人〕

(2011年11月11日)



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