上野動物園の両生爬虫類館(ビバリウム)の館内やケージの中にはアリがたくさん見られます。いつのまにか館内にすみついてしまったものなのですが、その種類や詳細についてはよくわかっていませんでした。
今回、アリ研究者の寺山守先生(東京大学農学部)と坂本洋典先生(北海道大学地球環境科学研究院)からのご依頼を受け、2009年8月14日、上野動物園にいらっしゃった先生方とともに、両生爬虫類館でアリを採集調査しました。
研究室での顕微鏡観察の結果、館内に住んでいるアリは、アシジロヒラフシアリ、ウスヒメキアリ、ケブカアメイロアリ、アカヒラズオオアリ、カドヒメアリの5種でした。どれも、関東地方には分布していない種で、館内に植えてある植物などにくっついて、沖縄や小笠原などから運ばれた可能性が高いそうです。どの種も関東地方の気候では越冬できないのですが、ビバリウムの中は一年中暖かいので、何年もかけて個体数を増やしていったのでしょう。
この中でもっとも数が多かったものはアシジロヒラフシアリで、館内のいたるところで見られました。この種は朽木、切り株、枯れ葉などに巣をつくり、働きアリの数が数百万匹に達する巨大コロニーを形成することもあります。人間にも展示動物にもとくに危害は加えないとのことなので、ひとまず安心しましたが、あまりに大量のアリがケージ内にいると、トカゲなどは足ではね飛ばしたりして、少し迷惑そうにも見えます。
これだけ大量にいるのだから餌として利用できないものかとも考えたのですが、残念ながら、それは無理のようです。昆虫を主食とするトカゲやカエルでさえ、アリは食べないことが多いからです。おそらくアリが体内にもつ化学物質「蟻酸」を嫌っているのでしょう。また、アリを食べる種であっても、どんなアリでも食べるというわけではないようです。
というわけで、なるべくケージにアリが入り込まないよう、水でアリよけの堀を作ったり、動物の排泄物(アリは爬虫類の尿酸によく集まります)をこまめに取り除いたりして対処しています。
写真はアシジロヒラフシアリ
〔上野動物園は虫類館飼育展示係 坂田修一〕
(2009年09月11日)
|