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ワオキツネザル「ジジ」の安楽死について
 └─2024/04/04
 西園「アイアイのすむ森」で飼育していたワオキツネザルの「ジジ」(オス)は、慢性腎臓病をわずらっていました。
 
 これまで、治療および苦痛の低減をはかり、生活の質(QOL)を維持することに努めてきましたが、回復が見込めず、今後苦痛が増大していく状況と判断し、大変残念ではありますが、やむを得ず、安楽死処置をおこないましたので、報告します。


2015年9月12日撮影

これまでの治療経過等


2022年2月
 後肢のふらつきがみられたため血液検査をしたところ、重度の貧血、中等度の高血糖、軽度の腎機能低下が確認されました。重度の貧血の原因のひとつとして腎性貧血を疑い、投薬治療を開始しました。

2022年6月
 6月上旬から元気はあるものの採食不良が見られました。細菌による尿路系の感染を疑いましたが、抗菌薬はあまり効かず、補液後に調子が良くなるため、画像診断をおこなったところ、重度の嚢胞腎が確認されました。血液検査の結果以上に腎機能が低下していることが考えられたため、定期的に補液をおこなうことにしました。

2022年8月頃
 6月以降、頻繁に補液を継続したところ、食欲が回復しました。このことを受けて好物のゼリーを普段の餌に追加したところ、補液を中止しても、採食量が維持できるようになりました。

2023年2月頃
 元気で食欲も良好でしたが、慢性腎臓病の状態が続いていました。さらに、血液検査の結果、腎臓の状態がかなり悪化していることがわかったため、経口補水に加えて、週1回の皮下補液を開始しました。補液直後の数日は非常に元気があるものの、1週間ほど経過すると歩くようすに異常が見られるようになることから、皮下補液を週2回にしました。その後は徐々に症状は進行するものの、治療により健康状態を維持することができていました。

2024年3月
 3月下旬からふらつきが目立つようになり、採血時などの保定(体が動かないように押さえておくこと)の際にも抵抗が見られなくなりました。血液検査により重度の腎不全が確認されたため、皮下補液を毎日おこなうようにしたものの、食欲は低下していきました。反応も非常に鈍くなってきたため、3月30日からは、バックヤードのみで管理するようになりました。

安楽死処置の判断と実施


2024年4月
 これまでの状況と今後の推移を改めて検討した結果、以下の理由から、現状の苦痛を治療により取り除くことは不可能であり、むしろ、増大していくことが予想されました。そのため、ジジにとってのアニマルウェルフェア(動物福祉)を考慮すると、無益な苦痛を長引かせることなく、安楽死処置をすることが適切であると判断しました。

・これまでの検査で、腎臓に嚢胞が形成され、定期的な血液検査で腎機能が徐々に衰えていることがわかっていました。さらに、起立不能となり、十分な尿が排泄されていないため、腎臓がすでに機能していないと推定されました。急激に個体の状態が悪化し、これ以上体に負荷がかかる治療は不可能でありました。
・当該個体は、腎不全のため、常に吐き気などの苦痛が生じていることが想定されていました。また、起立不能に加えて採食不能となっており、このような状態が継続すると、四肢や各臓器の循環不全も生じ、新たな苦痛や感染症を生じる可能性が高まっていました。

2024年4月3日
 苦痛を感じさせることのないよう配慮した方法で、安楽死処置をおこないました。

今後


 処置後、速やかに解剖をおこない、病変などについて調査をおこなっています。解剖により得られた貴重な情報の数々は、より多くの動物を救うため今後の獣医療に活かしていきます
 
 現在、アイアイのすむ森で飼育しているほかのワオキツネザルについても、引き続き、動物の体調を優先した飼育をおこなっていきます。

 このたびは大変悲しいお知らせとなりましたが、ご理解いただければ幸いです。

 なお、上野動物園では死亡した動物への物品や食品のお供えはご遠慮いただいております。お花につきましては、ご入園のうえ、ご自身で慰霊碑前のテーブルにお供えくださいますようお願いいたします。

〔上野動物園 飼育展示課〕

(2024年04月04日)



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