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インカアジサシの定期健康診断
 └─2023/11/23
 ブタの健康診断に続いて、上野動物園の子ども動物園すてっぷ「鳥たちのおうちⅠ」で飼育展示しているインカアジサシの定期健康診断のようすをご紹介します。

 人間は、体調が悪いときには、「調子が悪いんだけど」と教えてくれます。しかし、野生動物は、自分が弱っていることをなかなか表に出してはくれません。動物のようすは日々観察していますが、外見だけでは、元気かどうかが完全にはわからないのです。そこで、定期的に健康診断をすることが飼育管理上とても重要になってきます。

 10月30日の休園日にインカアジサシ11羽(メス7羽、オス4羽)とミヤコドリ1羽(メス)を捕獲して健康診断をおこないました。この2種がくらすアジサシ舎は、天井の一番高いところまで8mもあります。アジサシを安全に捕獲するために、子供動物園係の職員総出で作業をおこないました。長い網でアジサシを捕まえる人、網でとりやすい場所にアジサシを誘導する人、捕まえたアジサシを網から外して一羽ずつ箱に入れる人、外からアジサシがいる場所を教える人など役割を分担し、事前のミーティングでそれぞれの動きや作業の流れを確認してから本番に臨みました。


捕獲に使用した網。まずは外で、使い方を確認

 まずは捕獲です。最初に、地面にいることが多いミヤコドリは、踏んでしまうと危険なので、あらかじめ捕獲しました。

 次に、アジサシの捕獲です。あまり長い時間追い回すと鳥に負担がかかってしまうので、捕獲作業は手早くおこないました。アジサシは天井のくぼみに入りこんだり、ホバリング(飛びながら空中停止すること)をしたりと巧みに逃げ回りましたが、動物病院係の獣医師の立ち合いのもと20分ほどでスムーズに捕獲を終了しました。

 そして、捕獲したアジサシは隣室に移動し、獣医師が健康診断をおこないました。健康診断は、以下の3つの手順でおこないました。


1.個体の確認

 まず、個体識別のために足に取り付けたリングを確認しました。アジサシは外見では一羽一羽の見分けがつきにくいため、アルファベットと数字が刻印されているアルミ環(かん)とカラーリングの2種類のリングを足につけて、識別をおこなっています。遠くからでも確認できるカラーリングは、ペア形成時や子育て中の親鳥の行動観察などに役立ちます。 
 
 もしリングが脱落しても識別できるように、アジサシにはペットのイヌやネコの個体識別にも使用されているマイクロチップも入れてあります。そこで、一羽ずつ専用の機械をあてて、マイクロチップの番号を読み取って確認します。リングやマイクロチップが脱落している場合は新しいものを取り付けて、記録を修正します。

 個体識別は飼育管理上、とても大切なことなので、複数の手段でおこなうようにしています。


足のリングを確認


2.体重測定

 アジサシを箱に入れたまま重さをはかり、アジサシを取り出したあとの箱の重さを引いて、アジサシの体重を記録しました。体重の増減は動物の健康状態を把握するうえで重要な指標のひとつであり、給餌量を決める判断材料としても活用できます。


体重測定のようす


3.触診による健康状態の確認

 獣医師が一羽ずつ触診して、外傷の有無や胸の肉付き具合、足裏の状態などを確認しました。特に鳥類には羽があるため、見た目より痩せていることもあるので、直接触れて確かめることは重要です。


獣医師による触診

 すべての作業を終えたのち、アジサシとミヤコドリをアジサシ舎に放鳥しました。箱の蓋を開けると、自ら出てきて飛び立ち、擬岩の上など各々が落ち着く場所で羽づくろいを始める姿が見られました。


放鳥のようす

 今回の定期健康診断の結果、鳥たちの健康状態に特に問題がないことがわかりました。これからも日々の観察をしっかりおこないながら、鳥たちの健康管理に努めていきます。


アジサシ舎に戻ったアジサシとミヤコドリ

(上野動物園子供動物園係)

(2023年11月23日)



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