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140周年企画ズーネット連載「上野動物園 この10年──東園の動物の10年」東園飼育展示係
 └─ 2022/12/03
 東園は上野動物園の正門(表門)を含む東側を占めるエリアです。この10年間、東園の動物だけを見てもいろいろな変化がありました。すべてにふれることはとてもできませんが、代表的な出来事を紹介し、振り返りたいと思います。まず、飼育場所や飼育する動物の種類の移り変わりです。

 2014年には西園の水禽舎(現子ども動物園エリア内)解体のため、そこで飼育されていたホオアカトキ、アフリカヘラサギなどの鳥類を東園のツル舎、バードハウスなどに移動しました。また、2015年にはパンダ舎のとなりにあったキジ舎解体のため、キジ、ハゲガオホウカンチョウ、アカガシラカラスバトなどを旧正門前にあらたに建てられた鳥舎に移動しました。

 さらに、同年にはモノレール東園駅のとなりにあったラマ・バク舎解体のため、ラマをバイソン舎へ、カピバラを井の頭自然文化園へ移動しました。そして、アメリカバクはドール舎へ移動し、ドールに代わって展示されることになりました。当時、ドール舎では高齢のメス「エリ」1頭のみが飼育されていましたが、新規個体の導入見込みがなく、これを機にドールの公開展示を終了したためです。エリは翌2016年に14歳で死亡するまでバックヤードで飼われ、上野動物園で飼育したドールで2番目の長寿個体となりました。


ドール

 インドライオンもこの10年の間に展示を終了した動物のひとつです。上野動物園で生まれた3頭と、その母親を「ゴリラ・トラの住む森」で飼育していましたが、2016年に母親の「チャンディ」(19歳)、2017年に子の「アニタ」(メス、14歳)、2019年に子の「シャクティ」(メス、17歳)、「モハン」(オス、17歳)が死亡し、展示を終了することになりました。現在はスマトラトラの飼育に専念し、繁殖に向けて取り組んでいます。

 最近では、2020年に西園に「パンダのもり」をオープンするのにともない、ジャイアントパンダの「シンシン」、「リーリー」をそちらに移動しました。東園のパンダ舎では中国への返還が予定されている「シャンシャン」だけが現在も飼育されています。


インドライオン

 繁殖に向けた取組みが実を結んだものも多くありました。なかでも、アジアゾウの繁殖成功は10年間のもっとも大きな成果のひとつです。

 2016年8月、「ウタイ」の妊娠が確認されました。アジアゾウの妊娠は上野動物園にとって初めてのことで、慎重に準備を進めていましたが、子の誕生には至りませんでした。同年10月に流産してしまったためです。その後、2019年に2度目の妊娠が確認され、翌2020年にオスの子(後に「アルン」と命名)を出産しました。生後3日目には母親からの授乳も確認され、現在も順調に成長しています。上野動物園のアジアゾウ飼育開始から132年目にして、ようやく上野動物園生まれのアジアゾウが誕生したのです。

 一方で、残念な別れもありました。父親である「アティ」(23歳)はアルン誕生の約2か月前に結核のため死亡しました。また、2021年には「ダヤー」(メス、44歳)が悪性腫瘍のため死亡しています。

 ニシゴリラの「モモコ」は、この10年で4頭の子を出産しました。父親はすべて「ハオコ」で、2013年の「モモカ」(メス)、2017年の「リキ」(オス)、2022年の「スモモ」(メス)です。2016年の出産時は、残念ながら子が生後すぐに死亡したため名前はついていません。今年2022年の出産時、モモコは重度の貧血で授乳をするようすがなかったため、人工哺育をおこなうことになりました。ニシゴリラの人工哺育は上野動物園にとって初めてのことですが、経験のある動物園からの助言や海外の動物園の事例を参考にしながら取り組み、スモモは順調に成長しています。そして現在はスモモを群れに戻す準備を進めています。

 また、残念ながら、このあいだの2016年に「ムサシ」(オス、36歳)が肺炎で、2019年に「ナナ」(メス、36歳)が多臓器不全で、2021年に「ピーコ」(メス、推定51歳、国内最高齢)が腎不全で死亡しています。

 このほか、コシジロハゲワシの自然繁殖(2012年)、シロハラハイイロエボシドリの自然繁殖(2014年)、人工育雛(2016年)に国内(※)で初めて成功し、いずれも日本動物園水族館協会の繁殖賞を受賞しました。また、2017年には上野動物園としては初めてクマタカの繁殖に成功するなど、多くの鳥類に新しい命が誕生しました。

※(公社)日本動物園水族館協会の会員となっている動物園、水族館


クマタカ(幼鳥と成鳥)

 野生動物の減少とそれにともなう環境保全意識の高まりにより、今の動物園は主として飼育下で繁殖した個体を国内外の動物園間で交換することで展示動物を確保しています。しかし、検疫などの輸出入管理の厳格化などから、海外からの動物の入手は年々難しくなりつつあります。飼育動物の健康を維持し、繁殖を計画的に進めることは、今後もますます重要になるでしょう。

 また最近では、ライチョウの保全活動に代表されるように、生息域内と連携した取組みも増えています。動物園生まれの受精卵を生息地に戻す試みや、野生と飼育下の遺伝的交流を視野に入れた人工授精技術の開発は今後の動物園が担う保全活動を先駆けているものと言えます。

 野生動物のいきいきとした姿を実際に動物園で見ていただくため、そして絶滅の危機に瀕する国内外の野生動物を守るため、次の10年間も繁殖技術の向上と開発に取り組んでまいります。

〔上野動物園東園飼育展示係 坂田修一〕

◎140周年企画ズーネット連載「上野動物園この10年」
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教育普及事業の変遷
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(2022年12月03日)



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