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140周年企画ズーネット連載「上野動物園 この10年──日本産希少野生動物の保全について」副園長
 └─ 2022/08/01
 長い歴史を歩んできた上野動物園ですが、特にこの10年間では日本産希少野生動物の保全に関して大きな成果がありました。

 まずはニホンライチョウの保全において着実な成果があがっています。2008年に上野動物園がノルウェーから近縁のスバールバルライチョウの卵を導入して人工孵化、飼育に取り組んだのを皮切りに、環境省や国内のほかの動物園、そして生息地での保全に取り組む研究機関とも連携し、2015年には野生から卵を採取しての人工孵化、飼育、さらには人工繁殖への挑戦が始まりました。そこから7年が経ち、すでに飼育下で繁殖させる技術はほぼ確立されました。

 そして現在では、飼育下で育ったライチョウを野外に放すための技術開発など新たな課題に取り組んでいます。なかでも上野動物園では、野外のライチョウと飼育下のライチョウの遺伝子を交流させるうえで必要な、精液の低温保存や輸送などの技術開発の役割を担い、日々試行錯誤を繰り返しています。

ライチョウ(冬羽のオス)
ライチョウ(夏羽のオス)

 小笠原諸島の希少野生動物としてはアカガシラカラスバトや、陸産貝類の一種アナカタマイマイの名前があがります。繁殖はもとより、定期的な講演会の開催やパネルと組み合わせた生体の展示など、普及啓発にも取り組み、多くのみなさんに保全することの重要性を伝え続けています。

アカガシラカラスバト
小笠原に赴いてのアカガシラカラスバトの講演会

アナカタマイマイ
両生爬虫類館でアナカタマイマイなど
希少生物を展示解説しているエリア

 小笠原は東京都の島であり、東京の動物園で小笠原の希少動物を守ることは当然の責務です。そんな小笠原において、現在、新たに保全すべき鳥のひとつとしてオガサワラカワラヒワがあげられます。

 オガサワラカワラヒワは日本全体で見ても、もっとも絶滅のリスクが高い鳥のひとつと言われており、その保全のためには緊急的な対策が求められます。上野動物園も保全の主体の一員として、近縁のカワラヒワなどの飼育により集積した知見をもとに、現地小笠原で飼育繁殖に尽力する島民のみなさまへ助言をおこなうなど、スクラムを組んで絶滅回避に向けた挑戦を進めています。

小笠原固有のオガサワラカワラヒワ
(写真提供:一般社団法人Islands care)
上野動物園で飼育するカワラヒワ
(亜種オオカワラヒワ)

 野生生物保全の活動に終わりはありません。今後も上野動物園は多くの皆様と協力しながら、一歩一歩取り組んでまいります。

〔上野動物園副園長兼飼育展示課長 冨田恭正〕

(2022年08月01日)




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