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ニホンライチョウ、人工授精の取組み──性別が判明しました
 └─ 2021/08/30(09/15更新)
 お知らせのとおり、上野動物園ではニホンライチョウの人工授精による孵化に、日本で初めて成功しました。

 今回はこの人工授精の取組みについてご紹介します。


7月17日生まれのひなと8月1日生まれのひな
(左から撮影日:2021年8月8日、8月18日)

 ライチョウのような絶滅危惧種をまもるため、動物園のように安全な施設に生きものを保護し、遺伝的な多様性を維持しながら増やして絶滅を回避する方法を「生息域外保全」といいます。当園では2015年から環境省や(公社)日本動物園水族館協会と協力しながら、ニホンライチョウの生息域外保全に取り組んでいます。

 これまでは飼育個体の遺伝的多様性を保つために生きた動物そのものを野生から導入したり、動物園どうしで移動したりしていました。しかし、精液を移動することで新たな遺伝子を飼育している動物たちへ導入することができるようになれば、動物に移動による負担をかけずに遺伝的多様性を維持していくことが可能となります。

 家畜や家禽ではすでに、人の手により採取した精液を凍結保存し、授精させて増やす人工繁殖技術が確立しています。野生動物でもヤマドリやエゾライチョウなどにこの技術が活用された例はありますが、ニホンライチョウにはいままでありませんでした。

 そこで、上野動物園では今年から、飼育しているオスから精液を採取し、メスに注入して受精卵を産んでもらう人工授精にチャレンジしています。

 採精するときはオスをしっかりと抱えて保定し、背中から尾羽の付け根にかけてマッサージして射精を促します。しかし、人に抱えられることに慣れていないオスは緊張してしまい、なかなかうまくいきません。そこで、オスがリラックスして採精に臨めるよう2021年3月から保定やマッサージへの慣らしを開始しました。1日1~2回オスを抱え、何も問題がないことを学習させたところ、5月には採精が可能になりました。

 採取した精液は一定の処理をおこなったあと、メスの総排泄腔(フンや卵がでてくる器官)から注入しますが、メスが暴れるとうまくいきません。
 そこで、メスがちょうど入るサイズの箱のお尻の部分だけくりぬき、落ち着く暗い環境のもとで注入するよう工夫しました。この方法によりメスも落ち着いた状態で人工授精できるようになりました。

 これらの取組みによって2羽のメスが22個の卵を産み、7月17日に1羽、そして8月1日にもう1羽のひなが孵化しました。

 ニホンライチョウのひなは群れで育てた方が落ち着くので、15日間の差はありますが、2羽を同居させています。2羽目は1羽目のあとをついてまわり、えさの食べ方をまねしたり、おなかの下にもぐりこんだり、2羽で寄り添って眠る姿も観察されています。

 2羽とも順調に育っていますが、まだ幼く体調を崩しやすいので引き続き大切に育てていきたいと思います。


【動画】音声があります

2021年9月15日追記:性別が判明しました
 8月1日に孵化した2羽目のひなの性別が、メスであることがわかりました。

 9月12日に体重を測定したところ、1羽目(メス、56日齢)は377g、2羽目(メス、42日齢)は300gとなっており、2羽とも順調に育っています。

 将来、まだまだ数の少ないニホンライチョウという種の保全に貢献していってもらうことを期待しています。

性別が判明した8月1日生まれのひな
(撮影日:2021年9月12日)
手前:7月17日生まれのひな
奥:8月1日生まれのひな
(撮影日:2021年9月12日)

〔上野動物園東園飼育展示係〕

(2021年08月30日)
(2021年09月15日:性別について追記)



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