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上野動物園のライチョウ保護への取組み──第5回「上野動物園でのこころみ」
 └─ 2019/03/09

 上野動物園では、都立動物園・水族園の冬のキャンペーン「Visit ほっと Zoo 2019」(3月3日終了)の一環として、「みてみよう 日本のいきもの ここがすごい!!」をテーマにしたイベント「うえの de にっぽん!」を開催しました(お知らせはこちら)。

 日本でくらす生き物たちに着目したこのイベントに合わせ、上野動物園におけるライチョウ保護への取組みを、何回かに分けてご紹介しています。

第5回 上野動物園でのこころみ

 絶滅の危険が大きくなってきたライチョウを保全するため、環境省・文部科学省・農林水産省は2012年にライチョウ保護増殖計画をスタートさせました。
 生息地だけで保護するのではなく、動物園など生息域外の施設で飼育繁殖技術を確立し、ゆくゆくはライチョウがいなくなった地域に再導入する個体群を維持する「域外保全」という手法です。
 (公社)日本動物園水族館協会が環境省と連携して生息域外でのライチョウ飼育繁殖事業に参加することとし、ノルウェー北部の別亜種・スバールバルライチョウの飼育研究をおこなっていた上野動物園などが対応することになりました。

 日本産ライチョウを飼育する場合、ファウンダー(最初の飼育個体群)をどこから入手するかが問題となります。
 長野県と岐阜県の県境にある乗鞍岳はライチョウの個体数が比較的安定し、研究も長年おこなわれています。また、ライチョウのメスは繁殖期に1日おきに4から6個の卵を産卵します。産卵期や抱卵初期に巣や卵が捕食者などにより消失してしまっても、繁殖期中に再び産卵することがあります。
 そこで野生個体群に影響の少ない方法として、乗鞍岳でライチョウの巣を探し、産卵中で抱卵されていない巣から採卵することとなりました。ライチョウは産卵後期に抱卵に入りますので、抱卵前であれば追加で産卵が期待できます。域外保全を目的に採卵をおこなっても、追加で産卵があれば野生個体群に影響が少ないと判断したからです。

 2015年6月に5卵を上野動物園で受け入れ、孵化は成功しましたが、残念ながら約3ヵ月でひなは死亡しました。
 2016年には飼育方法を改善して再挑戦した結果、採取した4卵すべてが孵化し、無事に成育しました。翌年には成長した個体間での飼育下繁殖にも成功しています。

 乗鞍岳から採取したライチョウの卵は、富山市ファミリーパークや大町山岳博物館でも育成し、2017年にはそれぞれの施設の間で個体を交換して、遺伝的な多様性を保った繁殖計画を進めています。2017年に那須どうぶつ王国といしかわ動物園が加わった5施設で、飼育下第2世代を含めて現在29羽を飼育しています(2018年12月現在)。

感染症防止のため滅菌服で飼育作業をおこなう
2016年に上野動物園で孵化したライチョウのひな

◎「上野動物園のライチョウ保護への取組み」
第1回「ライチョウとはどんな鳥か」
第2回「日本のライチョウとスバールバルライチョウ」
第3回「なぜライチョウは減っているのか」
第4回「日本のライチョウを守るために」
・第5回(本記事)
第6回「ライチョウ公開にあたって」

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ニホンライチョウを公開します(2019年2月1日)

(2019年03月09日)
(2019年03月11日:連載最終回[第6回]までリンクを追加)


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