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「アイアイの森」での音対策、そして子どもの誕生
 └─2017/07/01

 上野動物園「アイアイの森」では、午後3時半が「おやつの時間」です(下記関連記事参照)。おやつは葉食いサル(リーフイーター)用の固形飼料にハチミツを混ぜてお湯で溶かしたものと、ミールワームなどです。これらを穴の開いたアクリルの筒に入れて与えています。

 この筒を展示室の金網に吊るすと、アイアイの特徴の一つである細長い中指を使って穴からじょうずに食べ物を取り出すようすがよくわかります。アイアイは夜行性なので展示室付近は暗くしてありますが、おやつの時間はアイアイを間近にみるチャンスです。

 このおやつの時間は「アイアイの森」オープン当初からおこなっており、その頃からずっと展示室の一部は金網でした。そこで昨年(2016年)、アイアイがさらに快適に過ごせるよう、窓を取り付けることにしました。

 夜行性のアイアイは、視覚よりも、大きな耳で物音を感じ取る聴覚がすぐれています。長い中指で木などの表面をトントンと叩き、反響音を手がかりに中のえさを探す行動はとてもユニークです。しかしそのため、聞きなれない音に驚くことがあります。音に驚くと枝の間を走り回り、ストレスを感じて巣箱に入って出てこなくなることもあります。とくに嫌いな音は、雨の日に雨ガッパが立てる音や、ビニール袋がガサガサいう音など、「ものが擦れる音」や「突然の大きな音」です。

 係員は展示室の裏側で作業をする際、雨ガッパは建物の出入口で脱ぎ着するようにしたり、アイアイの食事の時間に紙袋やビニール袋の音がしないよう気をつけたり、アイアイに対して音が刺激にならないよう気をつかいながら作業しています。また、観覧通路側には「お静かに」の注意書きを掲示し、館内で大声や大きな音が発生しないようご協力をお願いしているところです。

展示室の金網部に取り付けた、音を遮るための窓
2017年5月1日、アイアイ誕生

 ただし、観覧通路と展示室の間に金網しかない場合、音が室内に直接入り込んでしまいます。雨の日や来園者の多い日が続くと、アイアイが体調を崩すこともこれまでに見られました。そこで昨年、「動物園サポーター資金」を活用し、開閉式のガラス窓を取り付け、ふだんは直接音が入り込まないようにしました。

 おやつの時間には窓を開けるので、これまでどおり金網ごしにアイアイを見ることができますし、雨の日やアイアイの調子が悪いときなどは窓を閉めたままにできます。窓を閉めてもおやつを内側にセットできるので、採食行動をお見せするとともに、アイアイに対する音の負担を減らすことができるようになりました。

 そして今年5月1日にはアイアイのメスが誕生しました。アイアイは生まれてしばらく巣の中に子どもを留めておくのですが、親が落ち着かないときには子どもをくわえて室内を歩きまわることがあります。しかし今回の出産後そのような行動が見られることはなく、落ち着いて子育てをしているようです。部屋は非公開の場所ですが、こうした飼育管理上の取組みや来園者の方からの配慮が、施設全体を良好な環境に維持することに役立っているものと思います。

 子どもはまだ自分で巣箱から出てこないので公開日は未定ですが、今後ともアイアイたちを静かに見守ってくださいますようお願いいたします。

・関連記事
 動画:アイアイの「おやつ」の時間(2006年11月撮影)
 動画:アイアイの指の動きを観察(2010年11月撮影)

〔上野動物園西園飼育展示係 中村壮登〕

(2017年07月01日)


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