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3か国のパンダ飼育担当者が集結! ジャイアントパンダ国際交流シンポジウム開催レポート
 └─2014/12/27

 こちらの記事でお知らせしたとおり、2014年12月14日、「ジャイアントパンダ国際交流シンポジウム『パンダの飼育と保全──中国・シンガポール編』」を開催しました。レポートをお届けいたします。

 シンポジウムには、上野動物園、中国・臥龍パンダ保護研究センター碧峰峡基地、そしてシンガポール動物園のジャイアントパンダ飼育担当者が集い、絶滅が危惧されるジャイアントパンダの飼育・繁殖と研究の取り組みについて講演し、ディスカッションを行う貴重な機会となりました。

 まず講演1では、上野動物園のジャイアントパンダ飼育担当である倉持職員が、中国・臥龍パンダ保護研究センターなどの関係機関と連携しながら保全に向けて取り組んでいることについてお話ししました。とくに、繁殖に向けて万全を期し、綿密にホルモン値の増減や行動時間などのデータを収集している点には、中国とシンガポールの講演者も感心したようすでした。上野動物園の職員としては、次こそは!と期待がふくらみます。


上野動物園職員・倉持浩


 講演2では中国・臥龍パンダ保護研究センター碧峰峡基地のルオ・ボー氏に、ジャイアントパンダの保全に関する全体像について話していただきました。ジャイアントパンダは、おもに開発の影響で生息地が狭まったことなどにより、1980年代には1,000頭あまりまで個体数が減少しました。しかしながら同センターを中心とする保全の取り組みにより、生息地の面積は2010年代には1980年代の2倍以上に拡大、個体数も約1,600頭まで回復しています。
 このように成果はあがっているものの、いくつかの課題があります。まず、ジャイアントパンダの生息地が細かく分断されており、野生下での安定的な繁殖に支障をきたしていること。次に、飼育下のジャイアントパンダが世話をする人間に慣れ過ぎていたり、繁殖行動に集中できなかったり、最終的な目標である野生復帰に向けて懸念があること。これらの課題に対しては、離れた生息地どうしをつなぐ取り組みを進めるなどの解決策を講じつつあるということです。


中国・臥龍パンダ保護研究センター碧峰峡基地のルオ・ボー氏


 講演3ではシンガポール動物園のトリシャ・タイ・ティン・ニ氏が、2012年9月に始められたジャイアントパンダの飼育と繁殖に向けた取り組みについてお話しました。シンガポールにおけるジャイアントパンダの飼育は、赤道にきわめて近い地域では初のケースであるため、先行事例と比較しながら注意深く観察を続けているとのことです。シンガポールならではの事例として、ジャイアントパンダのエンリッチメント(野生での自然な行動を引き起こす取り組み)の一環でヤシの実を与えていることが紹介されました。ジャイアントパンダがまるでサッカーボールのようにヤシの実を転がして追い回す映像に、会場がどっとわきました。ただし、ジャイアントパンダはヤシの実を食べることはないそうです。


シンガポール動物園のトリシャ・タイ・ティン・ニ氏


 参加者からの感想として、「日本で誕生したパンダの赤ちゃんを中国に帰さなければならない理由がわかった」と、国際的なジャイアントパンダの保全に理解を示された方や、ジャイアントパンダに関わる仕事につくことを目標にされている学生の方からは「励みになった」との言葉をいただきました。

 上野動物園では今後もジャイアントパンダの保全に向けた飼育・繁殖に力を注いでいくとともに、みなさんにわかりやすくジャイアントパンダのことをお伝えする講演会やトークイベントなどをおこなっていきます。今後ともご支援のほどお願いいたします。

※今回のシンポジウムの運営費の一部に、ジャイアントパンダ保護サポート基金を活用いたしました。基金の趣旨に賛同し、ご支援をいただいたみなさまに、あらためてお礼申し上げます。

〔上野動物園教育普及係 小川雄一〕

(2014年12月27日)



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