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オオカナダヅル「マーサ」の死亡
 └─2010/10/22

 2010年10月2日、上野動物園キジ舎の片隅で飼育していたオオカナダヅルのメスがひっそりとその生涯を閉じました。36歳という高齢でしたが今年の猛暑を乗り切って涼しくなってきた矢先の出来事でした。

 戦後の上野動物園には諸外国から友好の証として、さまざまな動物が送られてきました。インド首相から送られたアジアゾウのインディラや、中国より送られたジャイアントパンダのカンカンとランランの来園などはとても有名な話です。

 しかしこれら寄贈された動物の多くは、昭和という時代の終焉を待たずしてその生涯を終えています。じつはこのオオカナダヅルもそんな動物のひとつでした。

 第38代アメリカ大統領ジェラルド・ルドルフ・フォード大統領から昭和天皇に送られた2羽のつがいのうちの1羽でした。フォード大統領は1974年11月に現職のアメリカ大統領として初めて日本を公式訪問し昭和天皇と謁見しました。このとき天皇とのご対面で大統領は足の震えが止まらなかったというエピソードは有名です。また、1975年には天皇として初訪米した昭和天皇を迎えています。

 オオカナダヅルは、このときの友好の証として大統領から陛下に対し1975年に送られたツルで、それを上野動物園が預かってきたわけです。

 一緒に来園したオスは1995年に死亡しています。オスには「ジョージ」、メスには「マーサ」という名前がついていました。この名前はアメリカ初代大統領ジョージ・ワシントンとその夫人のマーサ・ワシントンに由来しています。

 1982年に開催された上野動物園開園100周年の式典は、昭和天皇にご臨席賜りました。上野動物園が昭和天皇のご成婚の記念として東京市に下賜された経緯や、陛下が生物学者であり動物をごらんになることを楽しみにしていたことから、お見せする動物を選ぶことになりました。限られた短い時間で安全に見ていただける動物を検討しました。

 そこで選ばれた動物は、ジャイアントパンダでもゾウでもキリンでもライオンでもなくオオカナダヅルでした。式典終了後、陛下はこの2羽から誕生したオオカナダヅルのひなを直接ごらんになり、餌を与えられています。

 生い立ちも名前も由緒ある存在でしたが、昭和の終わりとともに上野動物園のオオカナダヅルは隠れた存在となってしまいました。余生をのんびり過ごすにはちょうど良かったかもしれませんね。マーサの死で、上野動物園の昭和の象徴がまたひとついなくなってしまいました。

〔上野動物園東園飼育展示係 倉持浩〕

(2010年10月22日)



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