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ナラ枯れ被害を経験した多摩動物公園の現在と未来
 └─ 2024/04/11
 多摩動物公園でナラ枯れの被害が確認されてから、5年が経過しました。5年目になると、オランウータンの放飼場まわりなど、早期よりナラ枯れ被害を受けてきた場所では、新しく枯れる木が少なくなりました。しかし、多摩動物公園の敷地は約60ha(東京ドーム12個分)と広大で、またコナラやクヌギがもともと多い土地柄であるため、まだ収束していません。場所によって、ナラ枯れ被害の進行状況に差がある状態です。

 最近担当者の頭を悩ましているのは、まったく枯れていない青々とした樹木が幹折れするケースです。枯れなくてもナラ菌には感染しているため、健全な樹木と比較すると腐朽しやすく、幹折れしてしまう現象が起きています。そこで、根元や幹にキノコやカビが発生していないか、幹や根元を木づちで叩いて変な音がしないか[※1]、朽ち木を巣として利用する生きものがいないかどうかを調べて、状態の悪い樹木の早期発見に心がけています。

 今までは被害木を早期に伐採・処理したり、殺菌剤の樹幹注入など予防策を実施して、少しでもナラ枯れの被害を減らすことに重きを置いてきました。しかし、今年から樹林地の再生に向けての活動も始めました。同じ園内でも、コナラ・クヌギの実生[※2]の分布状況は異なり、密に生えているところもあれば、ほとんど生えていない場所もあります。密に生えている場所は、草刈などをくふうして生えている実生を保護し育て、あまり生えていない場所は、苗木を植栽する予定です。この春は、ナラ枯れ被害が落ち着いた場所に、地場産の苗木を植栽しました。

 また、ボランティアの方と協同で、多摩動物公園産の苗木も育てています。昨年7月、バックヤードにあるコアラ用のユーカリ温室の横に、苗木を育てるための圃場(ほじょう)が新しく完成しました。園内で拾い集めたドングリを育てたり、園内のほかの場所から移植した実生を育てています。これらの多摩動物公園産の苗木を大きく育てて、今後園内に植樹する予定です。


苗木を育てるための圃場

 ナラ枯れに限らず、自然界では倒木により樹林が再生することがあります。台風などにより樹木が倒れることで、日の光があたるようになり、今までは暗くて生育できなかった種類の植物が生えてきます。いろいろな種類の植物が生えてくると、それをえさやすみかとするさまざまな動物がそこでくらしていけるようになり、生物多様性が豊かになっていきます。

 しかし、コナラが優先種の樹林地におけるナラ枯れからの樹林の再生の場合、事情が少し異なります。同時期に一度に沢山の木が枯れるため、ドングリを供給する木がまわりになく、新しい実生が生えてこなかったり、あまりに明るくなるためネザサや草本類、パイオニア植物[※3]の成長に勝てず、本来の植生の実生や野草が負けてしまう可能性があります。そのため、うまく再生できるようにサポートしていきながら、生物多様性が豊かな樹林地にしていきたいと考えています。

 また、動物園の樹林地はほかの場所の樹林地と比べると、期待される役割が少し多いです。動物園の樹林地は日陰を作り出したり、枝葉は動物のえさに利用されるなど、来園者への快適な環境づくりや動物福祉のために重要なだけでなく、展示の背景としても重要で、来園者に非日常的な印象を与えることができます。この役割を意識しながら樹林地を再生していきたいと考えています。

 ナラ枯れは、収束しても再発する可能性があることが報告されています。育てる樹木の配置や維持管理方法などをくふうすることで、ナラ枯れが再び起こっても来園者や動物が安全にすごせるよう、強い樹林地に再生させていく予定です。

 安全安心で、且つ動物の魅力をより伝えることができ、また木陰など飼育動物達の福祉にできる限り配慮した樹林地に再生できるよう努力していきます。


園内で採取したコナラの実生

【補注】
※1 木づちで叩き音を聞くことで、幹や根元に空洞があるか調べることができる
※2 植栽ではなく、種子やドングリから、自然に育った植物のこと
※3 荒地に最初に出現する植物のこと

(2024年04月11日)



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