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シン・キリン舎──三種の神器?
 └─ 2023/04/28
 2022年9月に、新キリン舎を本格的に使い始めて半年以上が経過しました。今回は、建設の設計段階から重要視した3つのことを中心に、新キリン舎の使い勝手や旧キリン舎から変わった点などをご紹介します。

 一つ目は、キリンたちが思い思いの高さでえさを食べられよう、高い位置からえさを与えられるようにすることです。多摩動物公園には、子どもから大人までさまざまな大きさのキリンがいます。旧キリン舎では、ごく一部のえさをかごに入れ、ロープで引き上げ、来園者から見えない場所で与えていました。

 新キリン舎では電動ウインチを導入し、高さ1.2mの大きなかごにたくさんのえさを入れて与えることができるようになりました。また、ガラス越しに寝室でえさを食べるようすを観察できます。


えさを食べたあと、座って休むキリンたち。すっかり新しい寝室に馴染んだようです

 二つ目は暖房です。寒さに弱いキリンにとって、冬場の温度管理はとても大切です。室温は最低でも15℃以上を保つ必要があります。旧キリン舎では、キリンが出入りする大きな扉は全てゆがんでしまい、室内に隙間風がびゅうびゅう入ってしまう状態でした。

 新キリン舎はチンパンジー側とガラス観覧側の1階部分はほぼ土の中に埋まっているため、外気温の影響をほとんど受けません。キリンがすごす部屋は大部分が2枚の厚いコンクリートの壁に囲まれているので、断熱効果も高くなっています。また、床暖房を備えており、扉は厚みがあり隙間もありません。広い空間でも数台のエアコンを稼働するだけで十分暖かくなります。これが一番ありがたいです。


断熱効果のある構造。右側にキリンの部屋があります

 三つ目は「繁殖の多摩」にふさわしい産室と、それにつながる親子専用の運動場があることです。旧キリン舎の産室は群れがすごす部屋の奥に位置していたため、群れを移動させないと産室の親子を出せませんでした。

 新キリン舎では産室専用の運動場があり、床はコンクリートではなく火山礫かざんれきを敷いているため、暖かい時期は屋外で出産することも可能になりました。しかし、近年はキリンの飼育頭数が増えすぎたことで、全国的に繁殖制限をおこなっています。そのため現在は、産室と運動場は繁殖オスである「ジル」を群れから分けるために使っています。


産室の運動場ですごす「ジル」
(撮影日:2023年4月18日)

 何度も会議をし、たくさん図面も見てきましたが、それでも気が付かなかったことがたくさんあり、キリンの引っ越し前に何度か大きな手直し工事が必要でした。また、今後使い続けていくと、思ってもない動物の事故や建物の不具合などがあるかもしれません。新しい動物舎を作る難しさを痛感しつつ、動物たちがより快適にすごせるよう、まだしばらくのあいだは注意深く使っていく必要がありそうです。

〔多摩動物公園北園飼育展示係 清水〕

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