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チンパンジーの担当になって
 └─ 2023/03/24
 動物園で仕事をしていると、動物たちはいろいろなすがたを見せてくれます。私はチンパンジーを担当し始めてまだ1年目ですが、このあいだに印象に残ったチンパンジーとの出来事を3つ紹介します。


これが噂の……

 チンパンジーは群れでくらす動物で、個体どうしのコミュニケーションが非常に大切です。そのため担当する飼育係もそれぞれの個体と関わりあいながら飼育管理にあたります。

 これまで、私は歴代担当者からチンパンジーとのエピソードを聞くたびに、本当にそのようなことが起こるのかと疑っていることがありました。それは飼育係に対する反応の違いです。たとえば、健康観察をするために手や足を見せてもらいますが、先輩がスムーズにおこなっているようすを見て、私も同じようにやってみると、「握手」とお願いしても「お尻」を見せます。

 なかには、返してほしいものをわざわざ遠いところに置いたり、起きているのに麻袋をかぶり知らないフリをしていると思ったら、麻袋を少しめくってようすを見ていたりするチンパンジーもいました。しかし、先輩がやるとやはりスムーズです。「こんなに違うものか」と驚き、思わず笑ってしまいました。先輩からの話は本当だったと身をもって経験し、コミュニケーションを取って信頼関係を築くことの大切さを学びました。

麻袋をかぶっているフブキ
ようすをうかがうフブキ


自然のマイナスドライバー! 道具を使う達人

 チンパンジーは石を使って木の実を割ったり、枝を使って蟻をとって食べたりと自然のものを道具として使うことができる動物です。動物園でもえさを食べるのにそうしたすがたを見ることができますが、思わぬ使い方に飼育係も驚いた出来事がありました。

 ある日の放飼場でのことです。チンパンジーが持っているはずのない、池に飲み水を溜めるための蓋をくわえています。チンパンジーに蓋を返してもらったあと、現場を見にいくと、なんとマイナスドライバーのような先端をした枝が落ちていたのです。これで開けたのだとすぐにわかりました。道具をうまく使う技術に驚いた反面、思わぬ事故につながらないよう、細かい部分まで気を配らなければいけないことを再認識しました。


まるでマイナスドライバーのような技


今なら食べるのか! 苦手なものはタイミングが重要

 チンパンジーは現在、年間34種類の野菜を給餌していますが、私たちに食べ物の好みがあるように彼らにも好みがあり、嫌いなものは残します。一方、飼育係は日々の栄養バランスを考えたメニューを与えており、可能な限り全部のえさを食べてほしいと思っています。そのため、残すえさを食べてもらう工夫をいくつか用意しています。

 たとえばオスの「ジン」は、1頭ですごしている寝室にカボチャを置いても毎回残してしまいます。しかし、ほかのチンパンジーたちとすごす日中にジンにだけカボチャを渡すと食べてくれました。これは、「自分だけがえさをもらえるのだ」という優越感を強く感じることから食べてくれるようです。同じものでもタイミングや状況の違いで反応が変わることを知り、工夫する楽しさを感じました。


部屋では残すカボチャを食べるジンとうらやましそうに見ているほかのチンパンジー

 今回は特に印象に残った3つを紹介しました。今後も、個性あふれるさまざまな姿を見せてくれることでしょう。そんな彼らのたくさんの魅力をみなさまに知ってもらい、動物に興味を持つきっかけになれたら幸いです。

〔多摩動物公園北園飼育展示係 河本〕

(2023年03月17日)



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