ニュース
チョウの温室の植物管理
 └─ 2022/11/25
 昆虫生態園の大温室内は亜熱帯の植物が繁茂し、まるで自然の中を歩いているような気分で、チョウが飛び交う姿を間近に楽しめる施設です。植物の管理は職員が立てる年間の作業計画(工程表)を基に、造園業者さんが毎日開園時間前の水やり、日中は草花の手入れを、休園日には鉢花の植替え、施肥、樹木の剪定、害虫駆除などをおこないます。

 大温室では月間で1,000頭以上のチョウの成虫を放しています。吸蜜源となる花の管理は特に重要で、咲き終わった花は摘み取り、次々と花芽がつくように手入れをします。また、いっせいに切り戻し剪定せず、順次おこなうことで全体の開花期間を長くしています。

 屋外に比べて気温が高い温室は樹木の生長が驚くほど速く、毎月樹木の剪定が必要となります。温室内には数種類の幼虫のえさ(食樹)が植えてあり、剪定して新芽を吹かせた若葉を幼虫のえさにしています。また、暑い夏はチョウたちが休息できるよう木陰のエリアを残したりもします。

 上段の流れの裏手には、10本ほどのガジュマルを植えています。ガジュマルは沖縄などに自生しているクワ科イチジク属の植物で、ユニークな形の気根が特徴です。ガジュマルはツマムラサキマダラの幼虫の食樹ですが、新芽が丸まり、茶色いぶつぶつができてしまう症状に長いあいだ悩まされてきました。原因はアザミウマ(薊馬、アザミウマ目)という2mmほどの黒く細長い吸汁性害虫です。

アザミウマにやられたガジュマルの葉
(葉を広げて中からでできた)アザミウマ

 試しに昨年度、いっせいに駆除作業をおこなうことにしました。展示昆虫に影響が出るおそれがあるため、薬剤は使えません。3~4mの高さの木なので、脚立に上り1枚1枚手作業で害虫の潜んでいる新芽を取り除きました。地道な作業の甲斐あって、見事に復活し、新芽が出てきました。

 ひとまず安心しましたが、しばらくすると今度はツマムラサキマダラの幼虫が大発生し、あろうことか新芽を食い尽くしてしまいました。やわらかい新芽に集中して成虫が卵を産み、それがかえったようです。ガジュマルにとってはどちらも害虫? 駆除を担当した業者さんは植物へのダメージが心配なようす。幼虫を見て目を細める私を横目に苦笑いしていました。

 その後も定期的にアザミウマを駆除して、以前に比べると葉の状態はだいぶよくなっています。しかしつい最近も、ふと見上げるとガジュマルの枝に大きく育った幼虫が……

 これからもチョウが元気にくらせる温室の植物管理を続けていきたいと思います。


(数日前撮影)ガジュマルの枝にいたツマムラサキマダラの幼虫

〔多摩動物公園昆虫園飼育展示係 若井〕

(2022年11月25日)



ページトップへ