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キリン17頭と飼育係、57日間の我慢くらべ
 └─ 2022/10/28
 多摩動物公園の新キリン舎で17頭の新生活が始まりました。言葉にすると簡単ですが、ここに至るまでには、57日間にわたるキリンと飼育係の知恵くらべと我慢の日々がありました。これはキリン17頭と飼育係4名がすごしたこの夏のはなしです。

 多くの動物は日常と違う環境に慣れるのに時間がかかります。キリンには新居が「安心して休息でき、美味しいえさが食べられる場所」ということを認識し慣れてもらうために、これまで使用していたキリン舎(以下「旧キリン舎」)と新キリン舎を併用し、時間をかけて引っ越しを進めました。しかし、17頭でいつもいっしょに行動しているキリンの群れは、そう簡単にこちらの思うとおりに動いてくれません。

 始まりは7月27日。新キリン舎のパドック(コンクリートの運動場)に枝葉を準備すると、若いキリン数頭が床の感触を確かめるようにゆっくり踏みしめながら入ってきました。少しでも音がすると「ギクッ!」と驚いて群れの方へ走って戻ります。それでも怖いもの見たさの感覚なのか、新しい場所とおいしいえさが気になるようで、おそるおそる入って来ては、走って戻る。そんなことを何度も繰り返しました。初めての場所ですごすキリンは、全神経を集中させていることがよくわかりました。

 これまでは何かに驚いたときに、落ち着いているおとなのキリンを見て「あぁ、大丈夫なんだ」と安心する若いキリンたちでしたが、今回だけは立場が逆転。おとなのキリンだけでなく、私たち担当者も若いキリンの好奇心と行動に助けられたのです。

 9月になるころには、群れの大半が新キリン舎のパドックと部屋への出入りができるようになりましたが、いまだにパドックにすら入れない3頭がいました。それは群れの年長の3頭です。おとなのキリンは警戒心が強く環境の変化にも弱いため、なかなか一歩が踏み出せず柵の外側からうらめしそうに中の個体を見てすごす日々が続きました。

 9月13日からは旧キリン舎の使用を終了し、いよいよ新キリン舎のみでの飼育管理に切り替えました。3頭が入れるように給餌の工夫や、えさで誘導するなどしてようやく9月15日、21日、23日と3頭はそれぞれ恐怖を克服し、開始から57日目にしてようやく全頭の引っ越しに成功したのです。その後、あれだけ時間のかかった年長3頭は何事もなかったかのように、落ち着いてすごしています。ただ、キリンも担当者も完全に新キリン舎に慣れるまでは、もうしばらく時間がかかりそうです。

 ここに書ききれませんでしたが、この57日間には、子どもの誕生、最年長の「サザンカ」の死亡、親子の群れ入りなどあり、みんながいろいろなできごとを乗り越えた長い長い夏でした。

収容のようす
部屋の中のようす

〔多摩動物公園北園飼育展示係 齊藤〕

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