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「2022年も4羽のトキが巣立ちました」の舞台裏
 └─ 2022/09/23
 多摩動物公園では、環境省が進めるトキ保護増殖事業に協力するため、佐渡トキ保護センターからトキをあずかり、非公開エリアで飼育しています。

 2022年も飼育中のトキが繁殖し、7月には4羽が無事に育ったことを「2022年も4羽のトキが巣立ちました」とお知らせしました。このなかに多摩動物公園でトキの飼育を開始してから初めて、親鳥の世話だけで孵化ふかし、育った(自然孵化・育雛いくすう)個体がいます。

 当園では2007年からトキを飼育して、これまでに83羽のひなが育っていますが、実は飼育係の介助なしで育った個体はいませんでした。卵の中でひなが孵化する直前に、親鳥が卵をつついてしまい孵化できなかったり、孵化しても給餌ができなかったり、小石を給餌して消化管がつまってしまったりしたためです。

 今回、自然孵化・育雛に成功したペアはCHペア。オスもメスも4歳の若いペアです。過去2回の繁殖では卵をつついてしまったり、孵化したひなへ給餌ができなかったりと自然孵化・育雛には至りませんでした。今年は繁殖期に入る前の昨年9月にふだん使用している45㎡のケージから倍の90㎡のケージへ移動し、繁殖期を迎えました。

 3月21日から産卵が始まり、4月18日から孵化が始まりました。モニターで見守っていたところ、両親とも孵化しようとしている卵をつついたり、捨てたりするようすはありません。そして4月19日の朝には無事に1卵目が孵化しており、自然孵化に成功しました。その後ようすを見守りましたが、給餌が見られなかったため4月21日にひなを回収しました。翌4月22日には2個目の卵が孵化して今度はしっかりと親が給餌をし、続いて3個目の卵も孵化し、2羽のひなへの給餌が見られるようになりました。まだ首もフラフラして親への給餌要求も弱い2羽でしたが、少しずつ親からの給餌が安定してきました。

 しかし、まだ安心できません。これまでほかのペアでも給餌が見られるようになってから親が砂をひなへ大量に与えてしてしまい、消化管が詰まってしまうことがありました。原因として考えられたのは、親鳥がえさのドジョウを消化するために食べた砂をひなへ給餌してしまうことでした。そこで今年は親へのドジョウの給餌量を制限したところ、ひなは消化不良を起こすことなく、6月上旬に無事に巣立ちました。

 今回、自然孵化・育雛に成功したのはこのペアがもつ資質によるところもありますが、部屋を広くし、オス親とメス親がのびのびとそれぞれの時間をすごせる環境を整えたこと、ドジョウの給餌量を減らしたことなどがあげられます。多摩で生まれ育った幼鳥は佐渡トキセンターへ移動し、野外へ放鳥される候補となります。多摩で初めて自然孵化・育雛で育った個体が佐渡の大空へ放たれる日が来ることを願っています。


巣立ちした直後のひな
(撮影日:2022年6月17日)


【動画】トキの育雛記録(音声はありません)

〔多摩動物公園野生生物保全センター 石井〕

(2022年09月23日)



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