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チンパンジー「デッキー」の歯の治療
 └─ 2022/09/09
 チンパンジーの歯の疾患は時々報告があります。特にオスは闘争で歯を折ることがあり、多摩動物公園では、過去に飼育していた「ジョー」(オス)の犬歯をブリッジ治療※1した例があります。現在推定44歳の「デッキー」(オス)にも虫歯があり、以前から時折痛そうにするようすが見られていたため、昨年から麻酔下での治療を継続してきました。昨年は前歯や奥歯の一部に炎症が見られたため、それらの歯を抜き、結果、歯を痛がるようすはなくなりました。

 麻酔下の検査では、昔折れた右上顎犬歯の状況もよくないことがわかりました。しかし、チンパンジーの犬歯は人の犬歯と比べて大きく、症例も少ないため、すぐに治療をおこなうことはできませんでした。そこでまずは犬歯の治療経験がある日立市かみね動物園や、人間の歯科医にアドバイスをいただき、治療方針を定めることにしました。

 獣医と担当者、人間の歯科医で話し合った結果、今回は抜歯ではなく「根管治療」※2をおこなうことになりました。

 手術当日、まずはレントゲン撮影で歯根の長さや状態を確かめました。その後、歯科医に直接教わりながら、当園の獣医が根管内の汚れを取り除き、洗浄・乾燥・殺菌をして薬剤を詰めました。内視鏡で見た際、治療前は黒く汚く見えた根管内でしたが、洗浄後は白くなりました。

 デッキーも翌日にはえさを食べ始め、術後の経過もよかったのでほっとしました。このまま細菌感染が起きないことを願っています。今後も犬歯の経過観察と治療を継続していく予定です。


「デッキー」の歯の治療のようす

 動物園で飼育しているチンパンジーの平均寿命は約40歳と言われています。日本国内の最高齢は69歳で、当園でも推定61歳のメスが元気にくらしています。

 デッキーが虫歯になった原因としては、子供のときショーをしていた際に甘いものを食べていた可能性や、野生に比べて長生きだからなどの理由があります。最近は動物園においてえさの改善や飼育方法の改善が進み、動物が長生きすることが増えてきました。多摩でもチンパンジーたちの虫歯予防もかねて、果物ではなく主に野菜をえさとして与えています。長生きしてもらえるのはよいことですが、半面、チンパンジーに限らず高齢動物に歯の疾患が増えてくることが今後予想されます。

 これからもデッキーが健康に長生きできるようサポートしていくとともに、今回の治療が動物園動物の歯の治療方法確立の一助となることをみなで願っています。

※1 ブリッジ治療 抜けた歯の両隣の歯に人工の歯を固定する治療方法
※2 根管治療 歯の神経にまで達した虫歯の治療で、歯の根管を清潔にする治療方法

〔多摩動物公園北園飼育展示係 野田〕

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