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チョウの幼虫飼育とアリの脅威
 └─ 2022/09/02
 ツマムラサキマダラは、成虫は青紫の羽根が、幼虫は黄色と黒の縞模様が特徴的な、南西諸島に生息しているマダラチョウのなかまです。多摩動物公園の昆虫生態園でも一年中飼育と展示をしています。


ツマムラサキマダラの幼虫

 幼虫はチョウ飼育室で飼育し、えさとしてキョウチクトウの枝葉をビンに挿すビン挿しという方法で与えていましたが、7月下旬ごろからうまく育たない個体が目立つようになってしまいました。キョウチクトウはこの時期はえさとして不適なのだろうか? ビン挿しでは葉がしおれてえさの質が悪くなってしまうのだろうか? うまくいかない理由を考えましたがはっきりしません。

 そこでいろいろな可能性を考慮して、キョウチクトウだけでなく食樹のガジュマルとベンジャミンも使い、袋掛けという方法で飼育を試みることにしました。袋掛けとは、地植えや鉢植えの木の枝に幼虫をつけ、それを網袋で覆う飼育方法で、ビン挿しよりもえさの植物がしおれずに長持ちします。また、網袋でしっかり覆えていれば、野外でもアリやハチなどの天敵に食べられることはないはずです。

 さて、実際に8月上旬に生態園内の上記3種類の食樹に幼虫をつけ、袋掛けをおこないました。数日後、ある程度育っていることを期待して袋を開けてみたところ、なんと、すべての袋で幼虫が1匹もいなくなっていたのです。かわりに、天敵のアリが入っていました。袋の口はしっかり閉めたにもかかわらずどこから入ったのだろう?とよく観察してみると、袋に小さな穴が開けられていました。どうやらアリが大あごで穴を開けて中に入り込み、幼虫を食べてしまったようです。袋の中の幼虫をめざして穴を開けたのか、それとも別の理由があったのかはわかりませんが、まさかこの短期間で全滅とは……。思ってもいない展開に肩を落としてしまいました。

袋掛け
開けられた穴


入り込んだアリ

 以前の記事でもご紹介しましたが、チョウを飼育するうえでアリは大きな障害となるようです。今回はやわらかい素材の袋網を使ったので、今後はもっと丈夫な素材のもので再挑戦するつもりです。

 飼育方法が確立しているようで実は難しいチョウの飼育ですが、来園者のみなさまにたくさんのチョウを見ていただけるように、今後も試行錯誤しながら工夫を続けていきたいと思います。

〔多摩動物公園昆虫園飼育展示係 草野〕

(2022年09月02日)



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