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栄養管理をウンチから科学する──チンパンジーたちの食事情・続々編
 └─ 2022/03/25
 多摩動物公園でのチンパンジーの栄養管理について、2020年2月7日の記事2021年1月22日の記事でお伝えしました。今回はウンチを使った栄養管理の科学的な評価方法についてお話しします。

 動物のウンチは情報の宝庫です。ウンチを調べることにより、動物の発情の状態や健康状態を知ることができます。栄養管理でもウンチからさまざまなことを知ることができます。

 動物の栄養管理では、あらかじめ栄養管理によって動物にどのような変化が現れるかを予測し、必要な記録を取り、定期的に記録を見直し、評価することでよりよい栄養改善につながります。どのような方法で栄養管理の評価をおこなうかは、着手のしやすさ、評価の難易度、継続のしやすさなどを考慮し、選択することになります。

 私たちは栄養管理によりチンパンジーのウンチに変化が現れると予測しました。具体的には栄養管理によってえさに含まれる繊維質の量が増えると、多くのチンパンジーが形のはっきりとしたよいウンチを安定的に排泄するようになると考えました。そこで、チンパンジーのウンチの状態を個体ごとに毎日記録し、定期的に評価することで栄養管理がチンパンジーのウンチに与える影響を調べることにしました。


キャベツなど繊維質の多い野菜を食べるとウンチの形はどう変化していくのでしょうか?

 約20頭分のチンパンジーのウンチの状態を毎日記録することは容易ではありません。また、記録する係員によって評価に差が生じないように、評価の手法を整える必要がありました。

 調べた結果、1~5の数字でウンチの状態を表すスコアでの記録方法が多くの動物で採用されており、チンパンジーにも参考にできる便状スコアがあることがわかりました。この方法を用いてウンチの状態を1(固く締まったウンチ)~5(水っぽいウンチ)で表し、記録しています。


こちらがチンパンジーの理想的なウンチです。
表面は乾いているけど固すぎず、しっかりとウンチの形が残っているところがポイントです

 2017年6月からウンチの状態の記録を毎日取り始め、現在も続いています。開始当時から2020年12月までの記録を個体ごとにまとめてみると、様々なことがわかりました。たとえば、予測とは異なり、チンパンジーのウンチはえさに含まれる繊維質の量以外にも季節などさまざまな影響を受けている可能性がありそうです。

 約5年間続いているウンチの状態の記録は今後も継続していきます。また、記録開始から2020年12月までの記録をさらに詳しく調査する予定です。この調査を通じてわかったことを何らかの形でみなさまと共有できる日が来ることを楽しみにしております。



 ある個体のウンチの記録を使って2種類のグラフを作成しました。あなたならこのグラフからどのような考えを導き出しますか?

〔多摩動物公園北園飼育展示係 伊藤〕

(2022年03月25日)



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