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動物園の景観が変わります──ナラ枯れとの闘いのなかで
 └─ 2022/03/18
 2021年、多摩動物公園や近隣地域では、多くのコナラ・クヌギなどの樹種がナラ枯れと呼ばれる伝染病の被害を受けました(詳しくはこちら)。

 昨年の調査では、園内(七生公園含む)の700本以上の木が、ナラ枯れにより枯れているのが確認されました。また、ふつうに枯れた木はすぐに朽ちることはありませんが、ナラ枯れにより枯れた木は朽ちるのが早く、園内でも一昨年に枯れた木の倒木や幹折れ、太枝の落下などの現象が発生しました。現在まで、これらの現象によって、来園者の方や飼育個体への直接的な被害、動物舎が破損するなどの事故は起きていませんが、このまま被害木を放置するとそういった事故が起きる可能性があります。

 そのため、12月中旬ごろからナラ枯れ被害木の伐採を進め、現在までに延べ1300人以上の作業員の方に伐採をお手伝いいただきました。園路に面している場所はクレーン車などの重機を使用して効率よく伐採できますが、園路から離れた場所や放飼場の奥などは、空師(そらし)と呼ばれる専門の方に木に登って伐ってもらったり、大型のクレーン車を使用したりする必要があります。園内は人力でしか伐採できない木が多く、そのような木の伐採には非常に時間がかかります。また、狭い園路が多いため、大型のクレーン車を設置できる場所には限りがあります。そのため、事前に作業業者と方法について念入りに打ち合わせして、より安全でかつ動物に影響が少ない作業方法を選ぶように努めました。

 また、多摩動物公園だけでなく、日野市など近隣地域でも同様に、ナラ枯れ対策のため被害木の伐採が進められています(詳しくはこちら)。


コウノトリ放飼場周辺のようす
(左:作業前、右:作業後)


作業風景

ナラ枯れ対応に伴う動物園の景観の変化

 園内の樹種構成のなかでもっとも大きな割合を占めるのは、ナラ枯れの被害を受けやすいコナラです。そのため、ナラ枯れ被害木の伐採を進めていくに伴い、園内の景観も変わってきています。特に、8割以上のコナラが枯れてしまった場所は、景観が大きく変化しました。

 1haあたり10本程度以上の被害が発生した森林は激害地と呼ばれますが、多摩動物公園はこれにあたる状況です。(一社)日本森林技術協会が作成するナラ枯れ対策マニュアル(林野庁補助事業)に従い、森林の再生をめざして被害木の伐採を進め、動物舎まわりの日陰をつくり出す木などの護りたい木には殺菌剤を樹幹注入するといった取組みを進めています。また、伐採と並行してササ刈りも進めています。ササを刈ると被害木を伐採しやすくなるだけでなく、今まで3m以上のササがあることで近づけなかった木に近づくことができ、状態を把握しやすくなります。さらに、ササを刈ることで、いままで日があたらなかった地表面に日があたるようになります。日があたるとコナラの実生をはじめさまざまな植物が生えてくるようになるため、伐採と並行してササを刈ることは森林の再生のために重要です。

 さらに今後は、苗木を植えたり、伐採した跡地に生えてきた実生や切り株から生えてきた芽を保護して育てたりすることで、園内の森林を再生させていく予定です。また併せて、動物舎のまわりなどの伐採跡地には、飼育個体のえさやエンリッチメントの道具になるような樹種を植えたり、飼育個体の生息地をイメージした植栽や生息地に自生する植物を導入したりするなど、動物園らしい景観づくりにも力を注いでいく予定です。

ナラ枯れ対応のなかでの動物園ならではの工夫

 園外に比べ、園内では被害木を伐採する際に工夫しなければいけないことが数多くあります。

 まず、動物の繁殖期への配慮です。猛禽類やコウノトリなど多くの鳥類が1~2月から繁殖期に入るため、それより早い時期に鳥類のまわりを集中的に伐採しました。鳥類は目の前に車両を横づけされることやクレーン車など背が高い重機を怖がるため、なるべく動物舎から離れた場所にとめたり、飼育担当者に作業開始時の飼育個体のようすを確認してもらったりするなど工夫しました。また、電動式の静かなチェーンソーを使用したり、搬出用のトラックに積み込む作業を動物舎から離れた場所で行ったりするなどの工夫もしました。

 次に、神経質な動物への配慮です。たとえば、ユキヒョウや家畜馬などは作業員が斜面に立っているだけでも落ち着きをなくします。そのため、事前に飼育担当と相談して、飼育個体を舎内へ収容したり、日をあけて伐採したりするなど工夫しました。

 さらに、毎日さまざまな大型車両が園内を通行し、コアラ用のユーカリや草食獣用の干草、肉食獣用の馬肉車など、動物たちにとって重要なものを運搬しています。園路は狭いことが多く、伐採のためにクレーン車などをとめると、他の車両が通れなくなることがあります。そのため通行止めにしても、これらの運搬車が動物舎までたどり着けるように代替ルートを確保したり、作業時間を調整したりするなど工夫しました。

 また、伐採した木のなかには、放飼場の方へ斜めに傾いている木や放飼場の上に枝がかかっている木などもありました。そのような木を伐採する際は、万が一伐採に失敗して枝や木が放飼場内に落ちた場合でも影響が出ないように、事前に飼育担当と相談し、放飼場へ動物を出さないようにしてもらうなど工夫しました。

〔多摩動物公園施設係 岡野〕

(2022年03月18日)



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