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希少種の保全の取組み──アカガシラカラスバトの骨折治療
 └─ 2022/01/28
 アカガシラカラスバトは小笠原諸島のみに生息している、世界でも希少なカラスバトの一種です。体は黒色ですが、頭から胸部にかけて広がる、光沢のある赤紫色から緑色のグラデーションがきれいなハトです。

 小笠原諸島ではノネコやネズミ、事故などにより個体数が減少していたため、東京動物園協会は2000年から国、東京都、小笠原村、NPOなどとともにアカガシラカラスバトの保護増殖事業に取り組んでいます。取組みの一環として多摩動物公園では翼の骨折などにより野生復帰が困難な傷病個体を受け入れ、治療後は飼育および繁殖をおこなっています。

 2021年4月中旬、小笠原諸島から2羽の翼が骨折したアカガシラカラスバトが動物病院に運ばれてきました。鳥は飛行するために体を軽くする必要があり、骨に微小な空洞がたくさんあります。これによって軽量化できる反面、強い力が加わると骨折が起こりやすい動物です。

 2羽は動物病院に搬入後、すぐに骨折の治療を始めました。2羽とも前腕の橈骨(とうこつ)と尺骨(しゃっこつ)が折れていました。そのため、麻酔下で骨のなかにピンを挿入して折れた骨をまっすぐに整え、骨がくっつくまで入院することになりました。

 1羽は若鳥で発見から治療までの時間が短かったので、1ヵ月ほどで骨がくっついてピンを抜くことができ、6月には退院できました。一方、もう1羽は成鳥で若鳥よりは治りが遅く、発見から治療までに時間が経っていたこともあり、骨がなかなかくっつきませんでした。最終的には骨折部の先の指先の骨や皮膚などの組織が壊死してきたため、やむをえず肘関節から断翼する手術をおこないました。手術後は順調に回復し、8月には無事退院できました。

若鳥の搬入時のレントゲン写真。
骨が折れてずれている
赤矢印:橈骨 青矢印:尺骨)
若鳥の退院前のレントゲン写真。
骨はしっかりとくっついている
赤矢印:橈骨 青矢印:尺骨)

 また、2羽は外部から動物園に移動してきたため、骨折の治療と並行して検疫もおこないました。入院中、始めはえさをなかなか食べてくれず心配したり、検疫で寄生虫が見つかり駆虫をおこなっても寄生虫がいなくなるまでに時間がかかったりと、さまざまな苦労がありました。

 世話をしていて気が付いたこととして、えさの好みにその時々のマイブームがあるようで、それまで生餌を中心に食べていたのが、数日後には配合飼料をよく食べて生餌を残していたり、配合飼料の中でも特定の豆しか食べなかったりと選び食いをしていたことが興味深かったです。

 退院した2羽は現在、育雛舎で飼育しており、いずれは多摩動物公園での繁殖で活躍してくれることを期待しています。

 今回は多摩動物公園で取り組んでいる希少種の保全活動の一部についてご紹介いたしました。今後も他の希少種の取組みについて、獣医師の視点でお伝えしていきたいと思います。

〔多摩動物公園動物病院係 宮嶋〕

(2022年01月28日)



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