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トノサマバッタはどうしてたくさんいるの?
 └─ 2021/12/03
 多摩動物公園の昆虫園の入口のオブジェにもなっているトノサマバッタは、昆虫生態園の出口側(右ウィング)で展示しています(東京動物園協会デジタルマップ「大きなバッタ」)。

 しかし、たくさんのトノサマバッタが入っているケージが並んでいるせいか、「すごい!」と驚かれている方もいらっしゃる一方で、「怖い」「気持ち悪い」と言われ、展示場の前を足早に通り過ぎられる方もいらっしゃいます。実は来園者のみなさまがご覧になっているのは飼育している全個体群の半分ほどで、バックヤードでも多数の個体を飼育しています。


トノサマバッタの展示場

 そもそもどうしてこんなにたくさんのトノサマバッタを飼育する必要があるのでしょうか。

 1950年ごろ、農薬などにより、それまでサルなどのえさとして利用していたイナゴが採れなくなった影響で、トノサマバッタを飼育・繁殖させてえさとして利用を始めました。それを1961年に展示に利用したことが、今日まで続くトノサマバッタの展示の始まりです。その展示は現在も受け継がれており、卵から幼虫の1齢、2齢、3齢、4齢、5齢、そして成虫と、トノサマバッタの成長段階をわかりやすく紹介しています。

 この展示を維持するためには、常に各成長段階のバッタが存在するように飼育管理をおこなう必要があります。そのためには周期的な採卵と、孵化した幼虫の回収をおこなうことが重要になってきます。

1.採卵

 現在、成虫まで育てた個体のなかから繁殖に適した個体を選別し、4つのケージに分けて飼育をし、繁殖させています。繁殖用のケージは写真のようにえさであるイネ科の青草と、湿らせた砂を入れた産卵床が入っています。この産卵床にメスは交尾後卵を産みます。


トノサマバッタの繁殖群のケージ

 この4つの繁殖用ケージにそれぞれA.B.C.Dと名前を付け、今日はAケージの産卵床を、明日はBケージ、明後日はCケージを、といったようにA→B→C→D→A……と周期的に産卵床を回収し、新たな産卵床と交換することで、回収した産卵床には4日分の卵が存在することになります。

 回収した産卵床は33℃の恒温器に入れます。そうすることで、産卵床に産み付けられた卵が10日前後で孵化し、周期的に幼虫を得ることができます。

2.孵化した幼虫の回収

 孵化が始まった産卵床は下の写真のようにケージに入れ、幼虫を回収します。2~4日程度で産卵床は新しいケージに移します。そうすることで、同一ケージ内の個体の成長段階がなるべく同じになるように調整しています。


トノサマバッタの孵化幼虫を回収中のケージ

 このような飼育管理によって、トノサマバッタの展示を継続することができています。

 人は誰しも嫌いなもの、苦手なもの、怖いものがあると思います。もちろんそれを無理に克服する必要はないでしょう。しかし、その感情はもしかしたら「わからない」「知らない」ことから来ているかもしれません。ほんの一歩、勇気をもって自分の「わからない」「知らない」世界をのぞいてみると、そこには新たな驚きと発見があるかもしれません。

 なお、トノサマバッタの飼育作業のようすはこちらの動画「昆虫生態園のうらがわ Part2」をご覧ください。

〔多摩動物公園昆虫園飼育展示係 髙田〕

(2021年12月03日)



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